トレーディングについての議論を継続します。資産証券化を利用したトレーディングの収益構造は、その見かけほど複雑なものではありません。例えば、100億円の価値がある不動産を担保に、5%の金利で70億円の7年ローン(債権)を融資し、この債権を証券化して、4.5%の不動産担保証券として販売します。商業不動産市場では5%の金利を支払ってお金を借りたい債務者(不動産の所有者)がいる反面、同等の信用力の証券であれば、4.5%の利回りで納得する投資家が証券市場に存在するため、この取引が成立します。5%の利回りで「買って」、4.5%の利回りで「売却する」裁定取引は、債権の買値(5%)と売値(4.5%)の差額(0.5%×7年×70億円=2.45億円)が売買益となるため、70億で融資した債権を72.45億円の証券として売却する行為と考えることもできます*(1)

このような裁定取引は、市場環境や重要な前提条件が大きく変化しない限り、確実に利益を生む性質のものですが、この事例における収益は、70億円の投資額に対して2.45億円、リターンは3.5%(税引前)に過ぎません。国際的な投資銀行に求められる自己資本利益率は15%~20%(税引後)であるため、この要求を満たすために、レバレッジを活用する必要が生じるのです。

レバレッジ
トレーディング事業を構成する二つ目の要素が、レバレッジ(≒借入れ)です。1990年代以降の投資銀行ビジネスは、レバレッジによって生み出される収益に著しく依存するようになっており、実質的には金融業というよりも、あるいはトレーディング業というよりも、レバレッジ業(≒借入れ業)と呼ぶべきではないかと思うくらいです。現代金融を理解するために、レバレッジの概念を理解することは避けられませんし、その理解の深さによって事業の成果も大きく左右します。

前述の不動産担保債権の証券化事業では頻繁に活用される手法ですが、担保付債権など、信用力の高い債権はレポ取引(REPO:Repurchase Agreement)を通じて、高いレバレッジをかけることができます。例えば、100億円の不動産資産を担保にした70億円(掛け目70%)のローン債権は、理論的には、担保となる不動産価格が、ローンの満期時までに30%以上下落しない限りにおいて元本の100%が償還する筈です。このように、ある程度信用力の高い債権であれば、満期まで保有しても、債務不履行によって元本が戻らないリスクは限られています。債権を担保にお金を貸している期間の期待損失が、仮に元本の5%だと考えられるとき、この債権を担保に、95%の融資を受けることが可能で、70億円の債権投資は、僅か3.5億円(70億円×5%)の自己資金で賄われることになります。先ほどの債権トレーディング事例における裁定利益は2.45億円で、70億円の資本投下に対して僅か3.5%のリターンを生む事業でしたが、レポ取引によって95%のレバレッジをかけ、投下する自己資本を3.5億円(5%)に圧縮すると、自己資金に対して70%(2.45億円÷3.5億円)のハイリターンを生む「高収益」事業に変貌するのです。しかし、現実に起こっていることは、5%の自己資本で100%の投資ポジション、すなわち20倍のレバレッジを利かせて投資を行い、20倍のリスクをとって、20倍の収益を得ているということに過ぎません*(2)

レバレッジとクラッシュ
1990年代以降の金融クラッシュは、原資産の価値がそれほど下落していないにもかかわらず、金融市場が大暴落に見舞われる事例が増えています。1990年代後半のロシア通貨危機から飛び火した、アメリカ商業不動産証券化市場のクラッシュの際も、アメリカの商業不動産市場は絶好調で、その平均資産価格は下がるどころか、混乱の最中にも上がり続けていましたし、サブプライム危機において、モーゲージ証券の価格が70%といった、通常では考えられない大暴落をしている状況においても、不動産市場は20%程度下落しているに過ぎないのです(前述のとおり、もともとの不動産ローンは、不動産価値に対して例えば70%など、一定の掛け目を上限とするため、この場合不動産が30%程度下落しても、本来であれば債権に損失が生じる可能性は低い筈です)。サブプライム危機において欧米の金融機関が発表している法外な損失額は、「単なる」不動産市場の暴落では全く説明がつかないと感じている人は少なくないと思います。原資産の価格がそれほど変動しないにも拘らず、金融商品が乱高下する大きな理由はレバレッジにあります。

金融市場の変化によって、資金の出し手の融資基準がほんの少し保守的に変化し、レポ取引を行う金融機関のリスク許容度が、例えば5%から6%に変更されたとします(「社債のスプレッドが拡大する」とはおおよそこのような状態を示します)。この瞬間、70億円の債権ポジションを維持するために必要な自己資金が3.5億円から4.2億円(70億円×6%)に、20%増加することになります。ほとんどの金融機関は利益を最大化するために、目いっぱいレバレッジをかけていますし、またそうでなければ、激しい競争環境の中で高額な人件費や必要な自己資本比率を達成することができません。自己資本の20%に相当する資金をすぐに調達することは事実上不可能ですので、やむを得ず投資資産を売却してレポ取引による借入れを減らし、自己資本比率を増加させる必要が生じます。しかしながら、掛け目が95%から94%に減少するということは、3.5億円の自己資本を前提とすると、70億円の投資ポジションを58.3億円まで、実に11.7億円も減少させなければなりません。往々にして一社がこのような状態である場合は、市場全体が同様の危機に瀕しています。11.7億円は70億円の約17%に相当しますが、債権残高の17%が一斉に投売りされれば、当然価格も大きく下落し、損失を被らずに現金化することは不可能です。損失が生じれば自己資本が毀損しますので、更に多額の債権を投売りしなければいけなくなり、マイナスのスパイラルが生じ、あっという間に自己資本が吹き飛ぶことになります。1998年のロシア通貨危機をきっかけとして、ソロモンブラザーズの伝説のトレーダー、ジョン・メリーウェザーが設立し、2名のノーベル経済学受賞者を運用チームに擁してドリームチームといわれたLTCM(Long-Term Capital Management)、ウォール街で「神」とまで言われたジュリアン・ロバートソンのタイガーマネジメントなどの超有名ヘッジファンド、CMBS市場で一世を風靡した米国野村證券の不動産ファイナンス部隊の破綻は、いずれもこのようなメカニズムによるものです。・・・そして、重要な点は、以上のような大混乱は、レバレッジの掛け目が僅か(上記の例では1%)変化した程度で生じ得る性質のものだということです。金融市場のクラッシュは、不動産などの原資産価値の暴落というよりもレバレッジの崩壊であるケースが多く、またそのようなときに大きな問題を生じるという傾向があります。信用供与水準の僅かな変化が市場の大暴落を生み出しているため、原資産の価格変動や市況の変化とはかけ離れた、金融市場の混乱が生じるようになっているのです。

レバレッジが生む高収益
レバレッジの大きな特徴は、高いレバレッジほど高収益が生まれるということです。例えば、何の変哲もない100億円の不動産を5%の利回り(すなわち5億円のキャッシュフロー)で投資を行う場合、仮に2%の金利で70億円(70%)の借入れを行うと、自己資金30億円に対して、毎年3.6億円のキャッシュフロー(5億円-70億円×2%)、すなわち12%(3.6億円÷30億円)の利回りの投資案件になります。同じ物件について、同じく2%の金利で75億円の借入れを行ったとすると、自己資金25億円に対して、毎年3.5億円のキャッシュフロー(5億円-75億円×2%)、自己資金に対して14%(3.5億円÷25億円)の投資案件、更に80億円の借入れでは17%、85億円の借入れでは22%、90億円では実に32%となります。この例では、レバレッジが0%、70%、75%、80%、85%、90%のときの自己資本に対する収益率はそれぞれ、5%、12%、14%、17%、22%、32%となるのですが、レバレッジが85%を越えたあたりから収益率が急激に上昇するのがわかると思います。これは、投下する自己資本が少なくなるほど、収益率の計算における分母が小さくなるために生じる当然の結果なのですが、いずれの例においても全く同じ利回りの、全く同じリスクの、全く同じ不動産に投資しているという事実は変わりません。

競争の激しいマーケットで、10%の高利回り不動産のような投資案件を見つけてくることは、非常に難しいことですが、不動産を担保に借入れを起こすことは比較的容易です。このため、トレーディングビジネスにおいて、よい投資案件を見つけてくるよりも、高いレバレッジの借入れを行う方が収益に容易かつ圧倒的に寄与する、という大きな特徴があります。誇張でもなく、不動産投資のノウハウを持たず、より良い案件を取得する努力もそれほど払わずに平凡な資産を取得しても、この資産を担保に激しくレバレッジを掛けることができれば、誰でもが「一流」のファンドマネージャーになることができるのです。冷静に考えてみると、現在国際的なヘッジファンドの預かり資産は200兆円を超え、その多くが10~20%を超える利回りを達成していると推定されています(逆に、それだけの収益を生まなければ資金が集まらず、ファンドとして成り立ちません)。株式投資などを経験して相場の難しさを知っている人であれば、20%のリターンが神業のように感じられるかも知れませんが、これだけレバレッジをかけて自己投資を行えば、むしろ当然のリターンといって差し支えありません。1998年に破綻した前述のLTCMは、数年間続けて年率40%を超える運用収益を上げていましたが、5,000億円の自己資本に対して20~30倍のレバレッジをかけ、10兆円を超える資産を運用していたとされ、更に、約7,000件のデリバティブ取引の想定元本は150兆円に達していました。これだけのレバレッジがかかっていれば、年率40%の収益は少なすぎるくらいかも知れません。

はじめは知恵を絞って裁定機会を見い出し、創造的かつ低リスクで収益を上げていた投資銀行も、レバレッジを掛けることでいとも簡単に収益が上がるので、1990年代以降バランスシートを目いっぱい拡大し始めます。2007年末時点における、アメリカの主要投資銀行の、自己資本を1としたときの総資産(レバレッジ倍率)は、ゴールドマン・サックス26倍、モルガン・スタンレー33倍、破綻したベア・スターンズとリーマン・ブラザーズはそれぞれ34倍と31倍、バンカメリカに身売りがほぼ確定したメリル・リンチ32倍、これら投資銀行の平均自己資本比率は僅か3%程度という状態です。最も財務状態が良いとされていたゴールドマン・サックスを例に取っても、当社の自己資本は2003年の220億ドルから2007年の430億ドルまで、4年間で210億ドル増加し、同期間のレバレッジ倍率は19倍から26倍へ、バランスシートは4,000億ドル(44兆円)から1兆1,000億ドル(123兆円)へ、実に7,200億ドル(79兆円)拡大しました。税引き後の純利益の120億ドル(1.3兆円)は確かに大きな額ですし、自己資本に対して27%の利益率を確保していることから、その「成果」に対して、実に200億ドル(2.2兆円)、純収入の43%が従業員へ給与および報酬として支払われています(2006年に当社が全世界の従業員に一人当たり7,300万円、ブランクファインCEOに対して63億円の報酬を支払ったことは『次世代金融論《その4》』で述べました)。2003年の報酬額の合計は75億ドル(8,300億円)でしたので、レバレッジを急拡大すると同時に報酬額が大きく増加していることがわかります。しかし、123兆円の総投資額(総資産)に対して僅か1%、1.3兆円の利益を生み出すことが、どのような根拠でこれ程の評価に値するのかは理解に苦しむところです*(3)

更に、これもサブプライム危機をきっかけとして破綻に瀕しているアメリカの政府系住宅金融機関、ファニー・メイとフレディ・マックは、どんなにアグレッシブなヘッジファンドや投資銀行も及ばない前代未聞のレバレッジ構造を有しています。両社の2007年末の自己資本832億ドル(9.2兆円)に対して、債務の合計は5.2兆ドル(572兆円)、レバレッジ倍率は実に65倍、自己資本比率は僅か1.6%の財務構造でありながら、米国政府の信用力によって、AAAの格付けを有した社債を大量に発行することで、市場から低金利の資金をほぼ無尽蔵に調達してレバレッジをかけていました*(4)。投資銀行の事例と同様、これほどのレバレッジが可能であれば、誰がどのような経営をしても、どのような戦略で事業を行っても、・・・あるいは恐らく毎日昼寝をしていても・・・、自己資本に対して多額の利益を生み出すことは極めて容易といって差し支えないと思います。

レバレッジの麻薬
ゴールドマン・サックスは、1990年代以降急速に進行した金融のトレーディング化の流れに乗った申し子のような存在です。2007年度のゴールドマン・サックスの税前収益の部門別構成比率は、トレーディング収益132億ドル、投資銀行収益(かつての本業)26億ドル、アセット・マネジメント収益18億ドルであり、利益の75%はトレーディング ・・・いわば「借入れ業」・・・ によって生み出されています。トレーディングビジネスをいち早く重要視したゴールドマン・サックスは、現在の国際金融市場において、1990年代前半にとは比較にならない存在感を有するようになっています。

トレーディング/レバレッジが国際金融ビジネスの「主役」に躍り出た最大の理由は、結局それが「簡単に儲かる」からです。投資利回り僅か1%の平凡な投資を大量に実行し、そのポジションに思いっきりレバレッジをかけるだけで、僅か30,000人の従業員に対して合計2.2兆円の報酬を配分できるようなビジネスが他に存在するでしょうか。「容易に」「多額の利益」を得るビジネスを止めることは、誰にもできません。超資本主義社会が金融業に浸透する中、収益を生み出すために自己資本を使った裁定取引が始まり、投資銀行やヘッジファンド運用者などの金融専門家が際限のないレバレッジを「商売」にするまでの一連の流れは、競争原理が生み出す必然であり、これが更に進行すると、市場のボラティリティは増加の一途を辿り、クラッシュの規模と頻度が資本市場のシステム自体を崩壊させるまで際限なく拡大することが避けられないでしょう。現時点でもなお、全く底の見えない国際金融市場ですが、ひょっとしたら、このサブプライム危機は、まさにそのような崩壊のプロセスなのかもしれません。

専門性という退化
更に、レバレッジの麻薬による傷を非常に深くしている要因が、競争原理によって「磨かれた」「高度な金融技術」と、「エリート金融専門家」自身であり、彼らの「常識」そのものが、実は問題を生み出している最大の原因かも知れません。前述のゴールドマン・サックスの事例において、「金融のプロ」が駆使する数々の「先端金融技術」は、結局のところ123兆円の資金で僅か1.5兆円(1%)の利益を生むためのものに過ぎません。事業構造をありのままに解釈すると、「金融のプロ」の専門性は優れた資産運用や裁定の技術ではなく、お金を借りる技術(あるいは、更に皮肉に聞こえますが、自分の報酬を増加させる技術)にあると考えるべきで、社会的な効率をほとんど生み出していないかも知れないのです。

これは、僕が「金融工学のジレンマ」と呼んでいるもので、散々時間とコストとエネルギーを費やして高度かつ精緻に作り上げたものが、実は本質的にほとんど価値を生まない、という現象を称しています。「世界最強」と言われているゴールドマン・サックスが、あれほどの人材と、システムと、顧客と、情報力と、政治力を駆使して、国債利回り以下の収益しか生み出さないのはなぜでしょう?世界で最も「高度」なリスクマネジメント技術によって管理されている筈の米国金融機関が、世界最大の損失を被るのはなぜでしょう?最も優秀な人材を擁し、最もグローバルに展開し、最も競争力があると言われていたウォール街の投資銀行がことごとく(実質的に)破綻し、中国やアラブから資本をかき集めなければ存続し得ない事態に追い込まれているのはなぜでしょう? ・・・これらの現象を素直に解釈すると、「高度」な「専門性」を有する「プロ」は、そもそも金融的な付加価値を生み出していない、と考えた方が辻褄が合うのです(自分の所得を増やす、と言う付加価値は効率よく生み出していると思います)。

『地方銀行に勤める地方君は100億円の不動産を担保に70%のローンを貸付けて運用する案件の稟議を書いていました。ウォール街の投資銀行で活躍するプロ君は、地方君の仕事ぶりを見て、なんて非効率で原始的な仕事をしているのだろうと呆れます。プロ君は得意の金融技術を駆使し、数量分析によって相関係数の低い資産をミックスするなどしてリスクを「減じ」、大量のローンプールを組成するなどしてクレジットリスクを分散し、高いレバレッジをかけることで自己資金を圧縮しながら多額の融資を実行し、同じ不動産を担保に、95%の投融資を実行します。プロ君は顧客に対して、この最先端の投融資は、高度な商品技術を駆使し、95%の投融資にも拘らず「A」格の信用力が付与され、従来の古臭くて単純な70%の投融資よりも投資家ニーズに合い、流動性が高く、投資リスクも十分に「抑えられている」と説明します。地方君は、難しい金融技術を学んだことがないので、プロ君の説明に圧倒されますが、本心では、同じ不動産を担保にした投融資ならば、70%のローンの方が簡単だし、わかり易いし、何よりもよほど安全ではないかとぼんやり考えています。しかし、理論派のプロ君にはとても反論できずに黙っていると、上司からはもう少しプロ君のように勉強しなさい、と注意されます。』

この挿話において、プロ君は、原資産である100億円の不動産担保の価値や信用力には全く変化がないにも拘らず、地方君が融資する70%の債権と自分がアレンジした95%の債権のリスクが同等だと投資家を説得することができる「専門家」です。その根拠は、この業界での長年の経験と、先端的な「金融工学」の技術によるものとされ、「合理的」な理論と分析に裏づけされています。金融工学が本当に「リスクを減じている」のであれば、70%の債権をより低リスクで商品化できそうなものですが、このような金融技術の大半はレバレッジ、特に限界的な高レバレッジの増加を伴います。一見複雑な金融技術の本質は、この冗談のような挿話そのものであり、95%の債権を70%のリスクとして販売しているに過ぎません。両者の差額の25%は空気を売るようなものですので、レバレッジを商売にする投資銀行が超高収益になるのは当然でしょう。別の表現では、前述の通り、70%前後を越える限界的なレバレッジは等比級数的な利益の増加を生み出す性質がありますが、投資銀行はその差額の大半を顧客に還元せずに収益化することによって、巨額の利益に変えているのです。これが、レバレッジを利益に還元する基本的な原理です。そして、この差額の「25%」は資本主義社会と金融市場に組み込まれたバブルとして、いつか必ずはじける運命にあるのです。

以上の議論を振り返ると、競争原理が専門技術の向上をもたらし、それが社会的な効率を生み出す、という「常識」は甚だ疑わしいものであることがわかります。競争原理が社会と市場に導入されることで金融技術が「高度化」するのは事実かもしれませんが、この技術は社会的な効率を生み出す目的として利用されるよりも、レバレッジを生み出すために利用されます。それはレバレッジが容易に収益になるからで、超資本主義の社会において、「容易に」「多額の」利益を生み出すことに抗することができるものは誰もいません。資本主義社会では、競争原理によって専門技術が高度化するほど、金融市場におけるレバレッジの創造が優先され、社会的な効率を低下させながら必然的にバブルが生じるというメカニズム、・・・すなわち自己崩壊のしくみが内包されているように思えるのです。

【2008.10.4 樋口耕太郎】

*(1) 実際の証券化におけるストラクチャリングや金利計算などは、ここに例示した事例よりも相当複雑ではありますが、基本的な原理は同じといって差し支えないと思います。

*(2) ここでは、債権の裁定取引にかかるヘッジコスト、証券化と販売費用、レポ取引にかかる金利、手数料、取引費用その他様々な諸経費は無視して計算していますので、実際の利益率はもっと低くなります。更に法人全体では、高額な人件費やその他販管費、本社経費、法人税などを差し引き、自己資本利益率は15%~20%程度に落ち着くイメージです。

*(3) ゴールドマン・サックスはまだ程度の良い方かもしれません。次に状態が良いと言われているモルガン・スタンレーを例に取ると、当社の自己資本は2003年の250億ドルから2007年の310億ドルまで、4年間で64億ドル増加しましたが、同期間のレバレッジ倍率は24倍から33倍へ、バランスシートは6,000億ドル(66兆円)から1兆ドル(115兆円)へ4,400億ドル(49兆円)拡大しました。税引き後の純利益の32億ドル(3,500億円)は自己資本に対して9%の利益率ですが、その「成果」に対して、純収入の60%が従業員に支払われ(2003年のこの比率は45%でした)、2007年、ジョン・マックCEOは4,100万ドルの報酬を得ました。3,500億円の利益は115兆円の総投資額に対して僅か0.3%に過ぎません。

以上は、“Why No Outrage?” by James Grant, Wall Street Journal, July 19, 2008、ゴールドマン・サックス社 2007年度年次報告書、モルガン・スタンレー社 2007年度年次報告書、を参照しています。

*(4) “Fannie Mae and Freddie Mac: End of Illusions” The Economist, July 17, 2008.