卒業シーズンである。この春社会に飛び立つみんなに、私の(勝手な)キャリア論をお贈りしたいと思う。

先日東京で成功した沖縄出身の起業家の方とお話をした。社会人のキャリアはVSOPで積み上げるのだという。20代は馬力(Vitality)を発揮し、30代は専門性(Specialty)を磨き、40代は独自性(Originality)を発揮し、50代は人間性(Personality)で人の役に立つのだそうだ。

まったく同感だが、7年刻みの方が私にはより実感がある。沖縄に来て以来10年間、2万人の人たちと1.5万時間対話してきて感じたことは、生産性の高い人生を歩む人たちは、社会に出ててからおおよそ7年刻み、29歳、35歳、40歳が大きな転機になっているような気がするのだ。

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Vitality: 29歳までは、与えられた環境で成果を出す時期。この時期あなたが社会に対して提供できる価値は、あなたの体力と時間くらいしかない。これを出し惜しむと、社会はあなたを相手にしなくなる。置かれた条件の善し悪しに悩む前にまず、死ぬほど働いてみるべきだろう。・・・この時期に若くして環境に文句を言う人は、残りの人生で迎える苦難をことごとく環境と人のせいにして人生を終える。

社会という異質な世界観に向き合わされ、それまでのちっぽけな常識が叩きのめされ、世界が問題だらけである事実に目を開かされるが、悩む前にまず、その矛盾だらけの社会のルールに則って、大きな成果を出すべきだろう。特に最初の3年間、与えられた環境に文句を言うのは、せめてトップになってからにするべきだ。

一見理不尽な環境や試練は、意味があって与えられている。こんなことに何の価値があるのかと失望したくなるかも知れないが、試練の本当の価値はそこで踏ん張って成果を出した後になってみなければ決して分らない。大丈夫、すべての試練はオーダーメードでやって来る。あなたが乗り越えられない試練は、決して与えられないようにできているのだ。

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Specialty: 35歳までは、あなたにしかできない仕事を成し遂げる時期。特定の分野を徹底的に追求して、その分野の第一人者になろう。仕事のできる先輩や、憧れの人物をつかまえて、疑問点を片っ端から質問し、大いに恥をかきながら失敗をくり返し、関連する資料を徹底的に読み込み、実績を積み上げると、意外なくらいに早く頭角を現すことができる。特定分野の第一人者になることは、実は、それほど難しいことではない。よく言われることだが、大きな山の下の方は込み合っているが、少し登った上の方は驚くほど空いているものだ。

特定の分野で一目置かれる存在になるということは、その分野の発展に責任をもつ立場になるということだ。あなたの組織にとって、その分野の成功はあなた次第ということになる。これは、あなたが今まで与えられきた環境を、自分の手で変える時期に来ているという意味だ。29歳までに疑問を持っていた矛盾点、非効率な点、理不尽な点をあなたが自ら改善することで、本格的な付加価値を組織にもたらすことになる。

・・・逆に、与えられた環境に甘んじることを覚えると、残りの生涯も妥協しながら生きることになる。いずれにせよ、35歳が重要なボーダーで、この年までに、環境に妥協せず、自分の価値観を生きる覚悟を定めなければ、以後、発想の転換を伴う環境や分野では殆ど使い物にならない。

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Originality: 40歳までは、自分の価値観で社会に挑戦する時期。ある人は独立部門を率い、ある人は新たな世界観を伴う革新的な手法で成果を上げる。世の中に存在しないものを生み出し、新しい組織を作り、収益に責任を持つようになる。

目先の収益を生むことよりも、その収益が生まれる本質的な理由を理解することが重要で、やがて現象の背後に存在する社会と経済と組織の本質に意識が向けられるようになる。目に見えないものを見つめるようになるため、目先の現象や結果やトラブルに一喜一憂しなくなる。その現象の中で、自分に何ができるのか、 真剣に考え、自分に向き合い、戦略的に生きるようになる。

この時期にあなたが生み出す最大の価値は、あなたが社会に示す独自の価値観だ。これまで世の中に存在しなかった、商品でも、働き方でも、組織のあり方で も、コスト管理の方法でも、サービスのあり方でも、市場の解釈の仕方でも、何でも構わないのだが、皆があなたの存在を知って、働きを見て、商品を手に取って、インスピレーションを受け、人生が少しでも変わるようなものだ。

・・・この時期に自分の価値観で「打って出る」ことを怖れると、残りの生涯、他人の価値観を生きることになる。

このタイミングで人生の折り返し地点を迎え、厄年と言われる3年間にかかり、これまでの生き方、考え方、働き方、人との接し方、人生の目標のあり方、仕事の価値などを、深く考えさせられる時期がやってくる。今まで積み上げてきた10のものの中から本当の価値のある1つを選んで、その他の9を捨てる必要が生じるかも知れない。捨てるということによって、生産性が飛躍的に向上するというパラドックスを経験するだろう。

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Personality: そして、厄年が明けた43歳以降、本当に価値のあるものを選択し、社会に前人未到の価値観をつきつけ、独自の成果を実現する。あるものは変人、あるものは狂人、あるものは異端と呼ばれるが、社会を切り開くのは彼らである。

しかしながら、自分の生き方が定まったとしても、それが社会において本当の価値を生むためには、知識でも技術でも経験でも能力でも、まして資産でも地位でもなく、裸の人間性がものを言う。知性が、行動となり、習慣となり、血肉となって人格になる。自分が発する言葉のひとつひとつ、人への接し方の一瞬一瞬、心のありかたの数々が、自分と他人の人生に寄与するようになるためには、これまでとはまったく異質で、長く、深い心の筋トレが必要だ。

このような生き方の集大成が、早ければ50歳くらいから形になりはじめる。社会に寄与し、人の役に立ち、人生の意味が少し分りかけてきたような気になるのだ。

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最後に、これらのすべてに必要なエネルギーは、100%食べるものから補給される。自分が口にするものをおろそかにしないように、食べるということを決して甘く見ないように。

健闘を祈ります。

【樋口耕太郎】