雑誌『沖縄に住む』に、樋口が沖縄観光事業についてのコラムを連載寄稿(5回シリーズ:「沖縄リゾート産業へのヒント」「従業員は知っている」「海の家」「質の時代」「沖縄的金融」)しています。

現在の沖縄は、今後日本(および東アジア?)の観光地としての地位を確立するか、一時の景気に胡坐をかいて凋落していった日本各地の観光名所の道筋を辿るかの分岐点を迎えていると思うのですが(僕には後者に傾きかかっているように見えます)、県政や観光業界を含め、殆どの人たちにそのような認識はないようです。今後の沖縄の観光産業の転換に有効な4つのポイントを紹介します。

コラムの構成となっている、沖縄が採るべき4つのポイントは、第一に、借り物の施設やスタイルではなく、沖縄らしさを活かすこと。象徴的な例は、海が最高にきれいなはずの沖縄で、余計なものに遮られずに海を横目で見ながらドライブできる海岸道路がこれほど少なかったり(延々と連なる醜いコンクリートの壁と視界にうるさいフェンスはどうにかならないのでしょうか)、ビーチの遊泳区域が砂浜のほんの一部にしか設定されていないことを見るたびに、夏の沖縄を楽しみに来る観光客が気の毒だなぁと思います。第二に、沖縄地元人が沖縄の観光施設をあまり利用しないのは、値段に値するだけの価値がないことを知っているからです。施設の実体をいちばん良く知っている従業員や地元の人たちが喜んで利用したくなる施設や事業運営を行うこと。好調な観光地では典型的にこの現象が生じますが、売上に目がくらんだり、一時期の人気に胡坐をかいて、本当に良いものを提供するという当たり前のことを当たり前に実行する人や企業が少なくなっている印象を受けるのは由々しきことです。第三に、夏のお客様だけに頼った非効率な産業構造を修正し、お客様の数を追いかけるよりもお迎えするサービスの質を見直し、来訪者の季節平準化を目指すべきでしょう。沖縄は長い間夏に偏重した売り方を続けているため、沖縄のリゾートホテルの多くは夏の3ヶ月しか利益が出ないほど産業構造がゆがんでしまいました。結果として、現在の沖縄へのお客様は、大掴みに三種類:夏の3ヶ月に訪れる夏の沖縄のお客様、週末にいらっしゃる2泊3日のお客様、修学旅行生、しか存在しない状態です。ゆったりできる1週間の休暇の目的地としての沖縄は既にお客様の選択肢からはずれているのです。現在のように観光客の季節変動が大きすぎると、どうしても島全体が「海の家」状態となり、一見さん相手の一発商売(「ぼったくり」とも言いますが)の傾向が強まり悪循環を生み出しています。反面、来訪者の季節平準化を行う方が、ハイシーズンの顧客数と単価を増加させるよりも、よほど地域の収益に寄与しますし、顧客の負担も減り、環境にも圧倒的に優しい政策となるでしょう。第四に、観光地の質の変化が最も顕著に現れる統計は、観光客の一人当たり平均滞在日数であり、観光政策にとって来訪者数や観光収入よりも重要な指標だと思うのですが、沖縄に訪れる観光客の平均滞在日数は、過去30年間一貫して低下し続けています。なぜ「もう一泊して行きたい」と思う人の数がこれほどの長期間にわたって減り続けているのか原因を理解し、お客様が「もう一日滞在したい」と思える環境を整備することが何よりも重要だと思います。

沖縄が「観光立県」を目指す意思が本当にあるならば、来訪者数の数値目標や新たなエンターテイメント施設の誘致やハコモノ建設に注力するのではなく、上記4点を戦略の柱に定め、これを実行する上で有効なハードは何か、という順番で物事を考えることが非常に効果的です。しかしながら、現実は、県政、第三セクター、観光業界が率先して上記の問題を生み出しているように思えます。