リーダーに必要なことは、突き詰めれば三つしかないのではないか。
第一に、問題を特定すること。
第二に、人を信じること。
第三に、執着しないこと。
いずれも経営者の(心の)問題だが、不断の修練によってこの力を磨くことができれば、いわゆる経営努力とよばれるもののほとんどすべては不要になると思う。
その意味を多少補足すると、「問題を特定する」とは、100の問題を見つけるということではない。問題がどれほど多くても、それぞれの原因を辿って行くことで、少数の根源的な問題を特定することができる。ひとつ直せば100の問題が解消するような、根源的な問題である。言葉を変えれば、ひとつの問題を直すことで、ほとんどすべての問題が解消しない「問題解決」は、ボタンを押し間違えている。
また、多くの人は、症状を解消することが問題解決だと考えている。このような「問題解決」は対症療法に過ぎず、新たな問題を作り上げるだけで、社会や組織にほとんど寄与しない。例えば、クレーム処理が問題解決ではない。クレームが生じる組織的な原因を特定して根絶することが本当の問題解決であるが、現実にはほとんどの人はこれに関心を示さない。
「人を信じる」とは、「信頼に値する人間を選別して、自分の判断が正しいことを祈る」という意味ではない。信じるに値するかどうか分らない状態でありながら、無条件に相手の善意を信じて「騙される覚悟をする」という意味である。
しかしまた、これは相手に対して盲目的になることでもない。相手の善意を信じて、人間関係の行方を相手に委ね、正面から向き合うことで、相手の心の真実 が初めて明らかになるのだ。相手の心の真実が、結果として、悪意であろうと善意であろうと、得られた真実には千金の価値があるが、それは相手に身を投じて 「信じた」後にしか得られない。
「執着しない」とは、夢をあきらめるということではない。大きなことを望まないということでもない。人が聞いたら呆れるほど壮大な夢を、人生賭けて真剣に追うべきである。ただし、それがどれほど重要なものに見えても、結果に執着しないということである。人生をかけて積み上げたものであっても、必要に応じて惜しげもなく手放すということだ。
【樋口耕太郎】