まだ梅雨も明けきらない気候ですが、みなさんはお元気に楽しい日々を
お暮らしでしょうか。

日曜日は父の日ですね。
母の日に比べるとなんだか盛り上がりに欠ける父の日なので、
お父さんにしっかりありがとうを伝えてあげてくださいね。

先月の母の日の麗王便りでは、母から教えられた「成長すること」について
書かせていただいたのですが、
父の日は何を書こうかしら…去年は一体何を書いたんだっけ…と読み返してみると、
去年は父の「のんき」について書いていました。さぁて今年は…と考えつつ、
ここのところ読んでいる脳科学者の方のいろいろな本をぱらぱらめくっていると
ふと思いついたことがあったので、その茂木健一郎さんのエッセイを
少し御紹介いたします。

「心の美しさは、ずっと変わることができるということの中にある。
何歳になっても、新しいことに出会って感動することさえ忘れなければ、
未知のものとの出会いを大切にしその楽しみに向き合っていれば、
健やかな美しい心を保つことができる。
「変わらない美しさ」というよりはむしろ、
「ずっと変わることができる」ということが私達の人生を豊かにしてくれるのだ。

そして、その豊かさに満ちた人生を送るために必要なことは、

まずは「行動する」こと。
いつかはいいことがないかと夢見ていても、幸せは向こうからやってこない。

次に「気づく」こと。
恵みをもたらす未知のものと出会っても、その存在に気づかなければ、
意味がない。

最後に、「受け入れる」こと。
今までの人生観や価値観にこだわって、せっかくの出会いを受け入れなければ、
すべてが水の泡になってしまう。」

なるほど! と思うのですが、歳を重ねるにつれて難しくなってくるのが、
この最後の「受け入れる」ことではないでしょうか。
今までの自分のやり方でいいのだと固執していては、
確かに大切な変化のきっかけをつかみ損なってしまいがちですし、
心が歳を取ってしまいます。
心の美しさってつまりは、何歳になっても淀まずに変わることのできる柔軟さ、
ということなのでしょうね。

このようなことを考えていて、思い出したのです。
父にプレゼントでもらった本・博物学者ライアル・ワトソンの「未知の贈りもの」。
生涯にわたってさまざまな著作を世に送り出したワトソンですが、若き日々を書いた
この本は、独特の感性に満ちていて美しい名著です。

ワトソンは、インドネシアの島に調査にでかけます。ある時、船で夜の海に出ると、
暗闇の中、ワトソンが乗った船を、たくさんの光が包み込みました。
その光達は、まるで生きているかのようにふるえ、脈動し、響き合います。
それは、イカ達の巨大な群れでした。
イカ達が、発光しながら、まるで群れそのものがもう一つの巨大な生きもので
あるかのように、ワトソン達が乗った船を包み込んでいたのでした。
ワトソンはその体験を通して考えます。イカの眼球は、非常に精巧に出来ている。
世界のありさまを、詳細に映し出している。ところが、イカの神経系は、それほど
発達していない。なぜ、見たものをそれほどよく「理解」できないのに、目だけは
発達しているのか。
ワトソンは、一つの考え方に思い至るのです。
イカ達は、ひょっとしたら、もっと巨大な何ものかのために、周囲の様子を
見ているのではないか。個体を超え、ひょっとしたら種さえも超えた、
巨大な生態系、自然そのもののために。
個体間の、あるいは種を超えた生物間の複雑で豊かな相互作用が
明らかにされた現在、ワトソンの考え方は、荒唐無稽であるとは決して言えません。

人間には、はっと気づく瞬間というものがあって、その前後で、本当に世界が
変わって見えるものです。問題は、自分が出会ったものを受け入れられるかどうか。
ワトソンと同じ体験をしても、「ああ、イカか」と深く考えないで
通り過ぎてしまう人もいるかもしれません。自分の経験が潜在的に持つ意味を
「受け入れる」ことができたからこそ、ワトソンは変わることができたし、
その後のさまざまな仕事の礎とすることができたのではないでしょうか。

子供の頃、この本のようにクリスマスやお誕生日にプレゼントをもらうのが
すご~く楽しみでした。あの頃のわくわく感、まるで、そのことによって
自分の人生が変わってしまうのではないかと思うほどの喜び。
そんな飛び上がるような気持ちを、私達はいつまでも忘れないでいたいものですね。

人生なんてこうだ、こんなものだと、決めつけてしまってはもったいないでは
ありませんか。
いつも、心のどこかに、「贈りもの」のための場所を空けておく。
そして思わぬ出会いがあったら、ちゃんと立ち止まって、それを受け入れる。
そんな心の余裕がある人は、いつまでも若く美しい心なのだと改めて思いました。

父からもらったのは本でしたが、云わば、人生そのものが「未知の贈りもの」
だったのだなと今では思っています。

日曜日はどうぞ温かな感謝の日をお過ごしくださいね。

【2012.6.14 末金典子】