沖縄県農林水産部のアレンジにより、2008年10月から2009年3月までの約6ヶ月間、主として沖縄県北部管内の林業事業者の方々を対象に、5回シリーズの予定で開催される経営セミナーを樋口が担当します。第一回目は、10月29日水曜日午後1時より、名護市の北部農林水産振興センター(北部合同庁舎内)にて、約4時間の講義です。

お問い合わせ:
〒905-0015 沖縄県名護市大南1-13-11 北部合同庁舎2階
北部農林水産振興センター森林整備保全課
電話 0980-52-2832

レバレッジの性質について議論を補足します。現代金融の難しさであり面白さは、見かけが必ずしも本質を表さないという点でしょう。トレーディングの本質は、経済価値の移転、すなわち(将来)キャッシュフローとリスクの移転です。例えば、ノンリコースローン*(1) による担保借入は、借り手の損失額が担保資産の額に限定されているという性質のために、担保資産から生み出される将来キャッシュフローとリスク(経済価値)を貸し手に一部移転する行為であり、金融的な売却(トレード)に似た性質を有しています。

レバレッジ・保険・トレーディングの深い関係
投資家が100億円の価値がある不動産*(2) を、何らかの理由で安く…80億円で…取得することができたとします。この投資家の取得簿価は80億円ですが、不動産の市場価格は100億であるため、金融機関や市場環境によっては100億円の評価を基準に借入を行うことも可能です。100億円の資産評価を基準にして80%のノンリコースファイナンス、すなわち80億円の借入を行うことができれば、この投資家は不動産の取得に要した80億円の資金を全額回収し、借入実行後は自己資金ゼロで時価100億円の不動産を所有することになります。この取引の現金移動を見ると、80億円で取得した不動産を、銀行(貸し手)に対して80億円で売却する行為と基本的に変わりません。単純な資産売却と異なる点は、将来資産価格が更に上昇した場合は、投資家が依然として100%利益を享受するのに対して、資産価値の下落リスクは貸し手が100%被るというということになります。その意味で、ノンリコースによる借入は、資産価格のダウンサイドリスクを銀行に売却するデリバティブ取引*(3) でもあるのです。このように、借入は売却と似た性質を持っているため、レバレッジをかける(借入を行う)という行為は、それがハイレバレッジであるほど担保資産の売却と同等の経済効果を生み出します。レバレッジがトレーディングであるということの意味は、このような点においても説明可能です。

この取引を貸し手(銀行)の立場から見ると、資産価格がどれだけ上昇したとしても、収益の上限は融資元本と金利の額であるのに対して、資産価格が80億円以下に下落した場合は貸付債権が不良化します。貸し手は担保資産を差し押さえ、時価で売却して資金回収を図ることができるのみです。売却価格が80億円を下回る損失に対しては貸し手が全額負担することになりますので、ノンリコースローンの貸し手は、借り手に対して、資産下落に対する保険を提供していると考えることもできます。すなわち、金融の本質において、レバレッジはトレーディングであると同時に保険の性質を持ち、そして同様のことですが、保険はトレーディングの一形態でもあるのです。

サブプライム危機は既にサブプライムローンだけの問題ではなくなっています。問題を構成する重大要素のひとつであり、ウォーレン・バフェットが「金融版の大量破壊兵器」と呼んだCDS(Credit Default Swap)は、JPモルガン銀行が1990年代に開発したデリバティブ(金融派生商品)の一種で、銀行が誰かにお金を貸したとき、それが返ってこないリスクをいかに軽減するかという発想から生まれたある種の保険商品です。貸し倒れた場合の元利金の支払いを保険会社や年金などの第三者に保証してもらい、銀行はその対価(保険料)を払います。これによって銀行はリスクをバランスシートから切り離し、融資の貸し倒れリスクに備える準備金として積み立てた巨額の自己資本(法定準備金)を取り崩して次の商売に回すことができるというものです。先月破綻し、納税者のお金で救済されたアメリカ最大の保険会社アメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)は、このようなCDSの主要な引き受け手(すなわち保険の売主)でした。AIGはCDSを通じて住宅ローンの保証も積極的に行い、政府に救済された時点でCDS保証残高は4,400億ドル(50兆円弱)に達していました。このように、米国の不動産リスクは、ノンリコースローンによって不動産所有者から銀行へ、そしてCDSによって銀行から保険会社へと拡散しながら転売(トレード)されていたと捉えることもできます。

投資銀行とレバレッジ
ノンリコースローンなどによるレバレッジは、不動産などの原資産のキャッシュフローとリスクを、資産の所有者からローンの貸し手へ移転する効果があるため、金融的にはトレーディングとおおよそ同義であることは前述しました。一般に、レバレッジが高い借入ほど、売主(所有者/借り手)にとって割安、貸し手(銀行など)にとって割高な「売買」になります。高レバレッジによって収益率を極限まで高める投資銀行のレバレッジ事業モデルは、貸し手に対して資産を割高に「売却」することで、貸し手の利益を自己に移転する取引ということになります。今回の金融危機で投資銀行のレバレッジ・ビジネス・モデルが崩壊したと言われていますが、そもそもこのような単純な行為がビジネスモデルと呼ばれること自体、何かしらバランスを欠いているような気がします。

「容易に」「多額の」利益を生み出すレバレッジは、超資本主義社会における金融メカニズムが自ら生み出した劇薬のようなものです。レバレッジとトレーディング事業を追求したゴールドマン・サックスは、純資産に対して20倍以上のレバレッジをかけ、収益の75%をトレーディングに依拠していますが、この事業構造を素直に解釈すると、当社は既にお金の流通業としての金融機能を失っており、投資銀行と言うよりも「金融機能付の巨大ヘッジファンド」と呼ぶべき事業実態です。トレーディングは借入れ業におおよそ等しいと表現しましたが、この借入れ業が金融工学によって「高度化」すると、資金の貸し手に過剰なリスクをとらせながら低コストの資本を大量に借入れ、貸し手の利益を借り手(自分)に移転することで、自己資本に対する利益率を増幅させる、レバレッジ・ビジネス・モデルが完成します。

このレバレッジ・ビジネス・モデルは二つの大きな経済価値の移転を達成しています。第一に、多くの場合、レバレッジの「貸し手」とは最終的には預金者であり、生命保険契約者であり、年金を積み立てている労働者であり、MMF投資家であるため、個人金融資産を投資銀行へ移転する効果があります。第二に、ゴールドマン・サックスの例では、当社の株主がバランスシート123兆円分のリスクを引き受けた対価として1.3兆円の利益を得る間に、従業員は2.2兆円の報酬を得ています。すなわち、貸し手の利益を当社に、そして当社の利益を従業員、特に経営幹部に対して大量に移転する構造を持っているのです。このように考えると、投資銀行のレバレッジ・モデルは、事業モデルというよりも、経営幹部のための報酬モデルというべきでしょう。

ベアスターンズ、リーマンブラザーズ、メリルリンチの破綻・救済に続いて、先日全米第一位、二位の投資銀行、ゴールドマン・サックスとモルガン・スタンレーが相次いで銀行規制の監督下に入り、これでアメリカの大手独立系投資銀行は、実質的に全て消滅したことになります。しかし上記のように、本質的な意味においては、1990年代以降アメリカから投資銀行という金融業態は既に消滅し、「金融機能付の巨大ヘッジファンド」が限定的に投資銀行機能を果たしていたことになります。外形的な「消滅」はむしろ事実の後追いに過ぎません。

オフバランスというレバレッジ
レバレッジの概念を「自己資金の潜在的なリターンを増幅させる効果を持つ他人資本」と広く解釈すると、実に様々な形態の金融取引がレバレッジの性質を有していることが分かります。ノンリコースの借入はもちろん、保険、先物取引、スワップ契約、オプション契約、プライベート・エクイティ・ファンドなどのオフバランス(簿外)投資、証券化、あるいは特定の方法による資産の売却やマネジメント契約に到るまで、実に多岐に渡る形態が該当します。

この中でも、オフバランスという会計手法は、魔法に近いと思うくらいレバレッジ効果が高く、現代金融において広範囲に利用されています。簡略な説明をし過ぎると語弊があるかもしれませんが、オフバランスとは、実際には存在するものを、あたかも存在しないものとして会計処理することを認められた資産および取引の総称で、貸借対照表(バランスシート)から切り離された(オフ)という意味で、オフバランスと呼ばれています。要は資産を認識せずに利益だけを計上する会計手法なのですが、このような「いいとこ取り」の会計処理を行えば、自己資本に対する利益率が異様に高くなる(ように見える)のは当然でしょう。証券化やプライベート・エクイティ・ファンドなどはほぼ例外なくオフバランス会計処理がなされていますが、これらの事業が「高収益」を生み、花形ビジネスと一般に認識されている(た)のは、必ずしも金融専門家の投資・運用能力の高さによるものではなく、単なる会計処理(これを称して「先端金融」と呼ぶ人もいますが)に因るところが大きいかも知れないのです*(4)。取引をオフバランスで構成すると、会計上「存在しない」資産から収益が生まれることになるため、ほぼ無限大の自己資本利益率が計上され、投下資本ゼロでオフバランス資産全体の収益を取り込むことができるため、無限大のレバレッジ案件と同等の経済(会計)効果を生むことになります。

1990年代以降世界中で影響力が増したプライベート・エクイティ・ファンドはこの典型といえるでしょう。このようなファンドは通称オフバランス・ファンド、あるいはオフバランス・エクイティと呼ばれますが、その名の通り、ファンドを実質的に運用している投資銀行や運営会社のバランスシートには現れない多額の投資資金です。例えば、ゴールドマンサックスは不動産関連事業だけでも、2008までに累積約3兆円のエクイティ資金をファンドによって運用しています。この資本に借入を組み合わせると、少なく見積もっても10兆円の投資が可能ですが、これらの運用資産は当社のバランスシートに計上されることはありません。更に、これらのファンドが生み出す収益の一部を運用報酬という形式で利益に取り込むことが一般的ですが、利益は手数料として認識されるため、「フィービジネス」と呼ばれています。「フィービジネス」の語感には「資本を使わずに金融サービスの付加価値を収益化する」という、何かしら洗練されたニュアンスがありますが、実態は資本集約的かつレバレッジに依拠した収益が形を変えたものに過ぎません。

先に、ゴールドマンサックスは、123兆円の資産から1.3兆円(収益率約1%)の利益を生み出していると述べましたが、それはバランスシートに表現されているものに限ります。オフバランスの事業を含めると、現実には123兆円のバランスシートを遥かに超える金額の投資がなされている筈です。それは文字通りオフバランスであるため、当社が1.3兆円の利益を生み出すために動員されている資本の額は、どれだけ開示情報を分析しても結局誰にも分からないというのが、金融市場の現実です。

いつものコメントですが、以上は会計原則に対する批判ではありませんし、投資銀行事業への意見表明でもありません。超資本主義環境で拡大した金融システムに関する現状認識のひとつのアプローチであり、その現状認識に基づく世界観が正しいとも、唯一のものであるとも主張するものではありません。会計原則が現在の形で運用されているのには理由がありますし、膨大な会計体系の一部だけを取り上げて体系全体の評価することも全く建設的ではありません。同様に、投資銀行の事業についても、その正否を議論するのではなく、特に1990年代以降、現在のような事業形態に変化してきた事業環境やメカニズムを理解することで、その事業と生態系の本質を理解する一助になると考えるためです。ゴールドマンサックス社を多く引き合いに出していますが、これとても当社が米国の大手投資銀行の中で相対的に良い財務状態を有しているためであり、議論を保守的に展開するという趣旨に因るものです。

【2008.10.23 樋口耕太郎】

*(1) ファイナンスの裏づけとなる資産のみを担保とし、実質的な資金調達者に債務が訴求しない借入形態です。サブプライム危機で問題になっている現象として、物件価値がローン残高の額を下回った場合、オーナーはローンの返済を続けるよりも債務不履行を起こして、銀行に物件の担保処分を進めてもらう方が経済的に合理的であるため、不動産価格の下落に伴って債務不履行率がより生じ易いという面があります。

*(2) 本稿において、不動産資産関連の事例を多く引用しています。私が不動産金融を経験してきたということもありますが、不動産取引は収益構造がシンプルで、金融取引の原理を理解しやすいという利点があると思います。

*(3) 専門的に表現すると、不動産の所有者はノンリコースローンの借入によって、80億円を行使価格、当該不動産を原資産とするコールオプションとほぼ同様のポジションを取得したことになります。投資家にとって80億円のノンリコースローンの担保借入の実行は、80億円で取得した不動産資産を銀行に「売却」し、同時にこのようなコールオプションを銀行から「買い付け」るトレーディング行為と考えることもできます。

*(4) 例えば、ある投資家Aが、80億円の借入と20億円の自己資金で時価100億円の不動産を取得する一連の取引をオンバランスで行うと、資産100億円、借入金80億円、自己資本20億円がバランスシートに計上されます。不動産の収益率が100億円に対して5%(5億円)、ローンの金利が80億円の元本に対して2%(1.6億円)だとすると、営業利益は3.4億円(5億円-1.6億円)、投資収益率(税前)は総資産100億円に対して3.4%、自己資本20億円に対して17%の案件となります。投資家Aの法人実効税率を40%とすると、税引き後利益は2.04億円、自己資本利益率(ROE)10.2%です。

投資家Aがこの不動産を証券化すると、不動産資産は法律上第三者が「所有・管理」する特別目的会社(SPC: Special Purpose Company)に100億円で売却され、投資家のバランスシートから消えます。SPCは80億円の社債を発行すると同時に、残りの20億円の資本分に関しては投資家Aが出資持分として拠出することが一般的です。しかし、この20億円の出資持分は年間3.4億円、17%の収益が見込める優良投資案件ですので、この持分を17%以下の利回りでも構わないと考える別の投資家(顧客B)に売却すると、投資家Aの出資持分に対する収益が急激に上昇します。例えば簿価20億円の持分の半分を10%の利回りで顧客Bに売却するということは、3.4億円の半分の収益1.7億円を10%の利回り、すなわち17億円で売却するということを意味します。投資家Aは売却した半分の出資分の簿価10億円の資産を、顧客Bに17億円で売却し7億円の利益を計上すると同時に、残った10億円の簿価に対して、毎年17%、1.7億円の収益を得ることになります。証券化の期間が7年とすると、投資家Aの投資収益は、10億円の資本に対して、18.9億円(1.7億円×7年+7億円の譲渡益)、1年当たり2.7億円、年率27%の高収益案件に生まれ変わります。100億円の不動産資産はオフバランスとなって帳簿上から消え、投資家Aは堅実で「無借金」高収益経営と評価されます。更にこの案件に対する投資家Aの投下資本は10億円のみ、残り10億の自己資本は預金口座に残ったままであり、運転資金・流動比率も健全です。・・・しかし、その実態は、共同投資家(顧客B)から10億円の資本を10%の高利回りで預かり(約束した投資収益は実質的な借入です)、5%の収益を生む平凡な100億円の不動産に投資しているに過ぎません。

また、以上の取引における他人資本は、2%で80億円の借入と10%で10億円の出資金ですが、両者の資本コストを加重平均すると、実質的に90億円を2.9%((80億円×2%+10億円×10%)÷90億円)で借り入れていることになります。2.9%の資本コストで90%のレバレッジを掛けることができれば、どんなに平凡な投資であっても大概は高収益事業に変貌することは前稿で述べたとおりです。

お元気ですか~?

今月はハロウィンの月ですね~!
ハロウィンの始まりは、古代ヨーロッパの原住民ケルト族の宗教行事。
11月1日を新年とする彼らはその前夜に死者の霊が訪れると信じ、充分な供物が
ないと悪霊に呪われると恐れていました。そのため魔よけをし、同時に秋の
収穫を祝う祭りを行っていたとか。その後、多くの聖人たち(Hallow)を
祝う万聖節となり、近年、欧米では魔女やお化けなどの仮装をした子供たちが
「Trick or treat!(お菓子をくれなきゃイタズラするぞ!)」と家々を
回ったり仮装をしたりして楽しむ日に変化しています。
日本でも注目されるようになったのはここ20年ほどのこと。
日本では子供のお祭りのようになっていますが、ハロウィンの行事が
ポピュラーなアメリカでは、大人たちも本格的な仮装に身を包み、
街中はもちろん職場にまで登場。友達や仲間同士で集まり、パーティで
盛り上がります。
大人もたまには子供に帰って遊ぶという気持ちは大切なことかも
しれませんね。

私の子どもの頃の気持ちをちょっと振り返ってみると…

私の叔母という人は、フランスでデザインの仕事をしていただけあって、
それはそれはモダンで、本名が山本富士子というだけあってとても美しい人で、
私が子どもの時から「おばさん」などとは決して呼ばせず、フランス語で
「タンタン」と呼ばせていた賢く気品のあるステキな女性で、
お洋服のセンスから、しゃべり方、香りや、身のこなしに至るまで
全てが私の憧れの人でした。
だから、独身のタンタンのお部屋でお留守番などしたあかつきには、
今がチャンスとばかりに小学生の私は、タンタンの香水を自分にもふりかけ、
母には似合いようもない「シャネル」なんていう口紅を塗り、
タンタンのフランス製ワンピースを引きずるように着て、
タンタンのクロゼットの中にうずくまり、しばしタンタンの香りに包まれながら、
大人の女性であるかのようなお洒落な気分にひたったものでした。

そのタンタンが、私が小学校にあがるころ
「これ、大人になるまで大事にとっておいてね」
と、ピンク色の小さな壜を私の手に握らせてくれました。それは、当時、
子どもの目にはまだ珍しかったマニキュアの壜でした。
ときめくようなあのときの気持ちを、いまも忘れることができません。
家に帰った私は、子ども部屋の本棚の上に、ピンク色の小さな壜を飾りました。
そして、それを眺めては、大人になったら、と思うのでした。
タンタンの贈りものは、マニキュアではなく、大人になることをたのしみに待つ
気持ちだったと気がついたのは、ごく最近のことです。

私も、こども達に大事なものをそっと手渡せる、そんなひとになりたいものです。
そう願わずにいられないのは、子どもが、大人の姿をうつす鏡のような存在
だからかもしれません。
たとえば、得する生き方をしようと躍起になっている大人を間近に見た子ども達は、
そうかそれが大事なんだな、と思うでしょう。
たとえば、人との間に信頼関係をつくろうと努力をする大人を間近に見た
子ども達は、そうかそれが大事なんだな、と思うでしょう。

また、子どもの頃の気持ちに帰る…とは、「やりたいことをやる」ということ
なのではないでしょうか。
大人になってしまうと、何かをするには理由がなくてはならないと思い込んでいる
向きがありますよね。目的は何か、というわけです。
それってばかばかしいですよね~! 本当は、やりたいことなら
何をやってもよいし、やりたいことをやるべきなのです。
理由は一つ、やりたいからやるんです。他に理由はありません。
自分のやることなすことに理由はいりません。何事にも理由を見つけようという
考え方をすると、新しい、心はずむ経験からは遠ざかってしまうことになります。
子どもの頃は、ただ好きだからというそれだけの理由で、一時間もバッタと
遊んでいたのではありませんか? 山登りや森の探検にも出かけたことでしょう。
その理由は? 「したかったから」なのです。
でも、大人になると、ものごとにはちゃんとした理由をつけなくてはならないと
思ってしまいがち。理由をつけたがる気持ちが強いと、なかなか心を開いたり、
成長しにくくなってしまいます。自分自身も含めて、誰に対しても、
どんなことでも、もう二度と理由づけしなくていいとわかったら、どれほど
自由な気分でいられることでしょう。
自分がやることは、何にでも理由がなければならないという気持ちを
捨ててみませんか?
なぜかと聞かれたら、相手の気に入るようなもっともらしい理由をつける必要は
ないのだということを思い出してください。
自分が決めたことは、ただやりたいからという理由だけで、やればよいのです。
そうしたいから――それだけの理由で、やりたいことは何でもやればよいのです。
こう考えると、経験に新しい展望が開け、
自分のライフ・スタイルとなっているかもしれない「未知への恐れ」を
なくす一助となるかもしれません。

さて、ここまで、子ども…子どもの気持ち…と書いてきたのですが、
わたしは子どもを持つ機会には恵まれませんでした。(まだいけるかも…?!)
でも、お腹を痛めた子どもがいなくても、子どものような存在のお友だちを
たくさんもつことができました。
お腹を痛めることは、神秘です。
でも、神秘があっただけでは、話ははじまりません。また、嘆いていても
しかたのないこと。
それよりも断然私が大事にしたいのは、世代の異なる人同士、お互いに
育ちながら生きていくということです。
この実感にたどり着くことができたのは、今までに出会った
お一人お一人のおかげです。心から、感謝を捧げます。

さてさて、今月は子どもの気持ちに帰って、ハロウィンをわいわい
楽しみましょう!

「遊びに来てくれなきゃイタズラするぞ!」

【2008.10.17 末金典子】

トレーディングについての議論を継続します。資産証券化を利用したトレーディングの収益構造は、その見かけほど複雑なものではありません。例えば、100億円の価値がある不動産を担保に、5%の金利で70億円の7年ローン(債権)を融資し、この債権を証券化して、4.5%の不動産担保証券として販売します。商業不動産市場では5%の金利を支払ってお金を借りたい債務者(不動産の所有者)がいる反面、同等の信用力の証券であれば、4.5%の利回りで納得する投資家が証券市場に存在するため、この取引が成立します。5%の利回りで「買って」、4.5%の利回りで「売却する」裁定取引は、債権の買値(5%)と売値(4.5%)の差額(0.5%×7年×70億円=2.45億円)が売買益となるため、70億で融資した債権を72.45億円の証券として売却する行為と考えることもできます*(1)

このような裁定取引は、市場環境や重要な前提条件が大きく変化しない限り、確実に利益を生む性質のものですが、この事例における収益は、70億円の投資額に対して2.45億円、リターンは3.5%(税引前)に過ぎません。国際的な投資銀行に求められる自己資本利益率は15%~20%(税引後)であるため、この要求を満たすために、レバレッジを活用する必要が生じるのです。

レバレッジ
トレーディング事業を構成する二つ目の要素が、レバレッジ(≒借入れ)です。1990年代以降の投資銀行ビジネスは、レバレッジによって生み出される収益に著しく依存するようになっており、実質的には金融業というよりも、あるいはトレーディング業というよりも、レバレッジ業(≒借入れ業)と呼ぶべきではないかと思うくらいです。現代金融を理解するために、レバレッジの概念を理解することは避けられませんし、その理解の深さによって事業の成果も大きく左右します。

前述の不動産担保債権の証券化事業では頻繁に活用される手法ですが、担保付債権など、信用力の高い債権はレポ取引(REPO:Repurchase Agreement)を通じて、高いレバレッジをかけることができます。例えば、100億円の不動産資産を担保にした70億円(掛け目70%)のローン債権は、理論的には、担保となる不動産価格が、ローンの満期時までに30%以上下落しない限りにおいて元本の100%が償還する筈です。このように、ある程度信用力の高い債権であれば、満期まで保有しても、債務不履行によって元本が戻らないリスクは限られています。債権を担保にお金を貸している期間の期待損失が、仮に元本の5%だと考えられるとき、この債権を担保に、95%の融資を受けることが可能で、70億円の債権投資は、僅か3.5億円(70億円×5%)の自己資金で賄われることになります。先ほどの債権トレーディング事例における裁定利益は2.45億円で、70億円の資本投下に対して僅か3.5%のリターンを生む事業でしたが、レポ取引によって95%のレバレッジをかけ、投下する自己資本を3.5億円(5%)に圧縮すると、自己資金に対して70%(2.45億円÷3.5億円)のハイリターンを生む「高収益」事業に変貌するのです。しかし、現実に起こっていることは、5%の自己資本で100%の投資ポジション、すなわち20倍のレバレッジを利かせて投資を行い、20倍のリスクをとって、20倍の収益を得ているということに過ぎません*(2)

レバレッジとクラッシュ
1990年代以降の金融クラッシュは、原資産の価値がそれほど下落していないにもかかわらず、金融市場が大暴落に見舞われる事例が増えています。1990年代後半のロシア通貨危機から飛び火した、アメリカ商業不動産証券化市場のクラッシュの際も、アメリカの商業不動産市場は絶好調で、その平均資産価格は下がるどころか、混乱の最中にも上がり続けていましたし、サブプライム危機において、モーゲージ証券の価格が70%といった、通常では考えられない大暴落をしている状況においても、不動産市場は20%程度下落しているに過ぎないのです(前述のとおり、もともとの不動産ローンは、不動産価値に対して例えば70%など、一定の掛け目を上限とするため、この場合不動産が30%程度下落しても、本来であれば債権に損失が生じる可能性は低い筈です)。サブプライム危機において欧米の金融機関が発表している法外な損失額は、「単なる」不動産市場の暴落では全く説明がつかないと感じている人は少なくないと思います。原資産の価格がそれほど変動しないにも拘らず、金融商品が乱高下する大きな理由はレバレッジにあります。

金融市場の変化によって、資金の出し手の融資基準がほんの少し保守的に変化し、レポ取引を行う金融機関のリスク許容度が、例えば5%から6%に変更されたとします(「社債のスプレッドが拡大する」とはおおよそこのような状態を示します)。この瞬間、70億円の債権ポジションを維持するために必要な自己資金が3.5億円から4.2億円(70億円×6%)に、20%増加することになります。ほとんどの金融機関は利益を最大化するために、目いっぱいレバレッジをかけていますし、またそうでなければ、激しい競争環境の中で高額な人件費や必要な自己資本比率を達成することができません。自己資本の20%に相当する資金をすぐに調達することは事実上不可能ですので、やむを得ず投資資産を売却してレポ取引による借入れを減らし、自己資本比率を増加させる必要が生じます。しかしながら、掛け目が95%から94%に減少するということは、3.5億円の自己資本を前提とすると、70億円の投資ポジションを58.3億円まで、実に11.7億円も減少させなければなりません。往々にして一社がこのような状態である場合は、市場全体が同様の危機に瀕しています。11.7億円は70億円の約17%に相当しますが、債権残高の17%が一斉に投売りされれば、当然価格も大きく下落し、損失を被らずに現金化することは不可能です。損失が生じれば自己資本が毀損しますので、更に多額の債権を投売りしなければいけなくなり、マイナスのスパイラルが生じ、あっという間に自己資本が吹き飛ぶことになります。1998年のロシア通貨危機をきっかけとして、ソロモンブラザーズの伝説のトレーダー、ジョン・メリーウェザーが設立し、2名のノーベル経済学受賞者を運用チームに擁してドリームチームといわれたLTCM(Long-Term Capital Management)、ウォール街で「神」とまで言われたジュリアン・ロバートソンのタイガーマネジメントなどの超有名ヘッジファンド、CMBS市場で一世を風靡した米国野村證券の不動産ファイナンス部隊の破綻は、いずれもこのようなメカニズムによるものです。・・・そして、重要な点は、以上のような大混乱は、レバレッジの掛け目が僅か(上記の例では1%)変化した程度で生じ得る性質のものだということです。金融市場のクラッシュは、不動産などの原資産価値の暴落というよりもレバレッジの崩壊であるケースが多く、またそのようなときに大きな問題を生じるという傾向があります。信用供与水準の僅かな変化が市場の大暴落を生み出しているため、原資産の価格変動や市況の変化とはかけ離れた、金融市場の混乱が生じるようになっているのです。

レバレッジが生む高収益
レバレッジの大きな特徴は、高いレバレッジほど高収益が生まれるということです。例えば、何の変哲もない100億円の不動産を5%の利回り(すなわち5億円のキャッシュフロー)で投資を行う場合、仮に2%の金利で70億円(70%)の借入れを行うと、自己資金30億円に対して、毎年3.6億円のキャッシュフロー(5億円-70億円×2%)、すなわち12%(3.6億円÷30億円)の利回りの投資案件になります。同じ物件について、同じく2%の金利で75億円の借入れを行ったとすると、自己資金25億円に対して、毎年3.5億円のキャッシュフロー(5億円-75億円×2%)、自己資金に対して14%(3.5億円÷25億円)の投資案件、更に80億円の借入れでは17%、85億円の借入れでは22%、90億円では実に32%となります。この例では、レバレッジが0%、70%、75%、80%、85%、90%のときの自己資本に対する収益率はそれぞれ、5%、12%、14%、17%、22%、32%となるのですが、レバレッジが85%を越えたあたりから収益率が急激に上昇するのがわかると思います。これは、投下する自己資本が少なくなるほど、収益率の計算における分母が小さくなるために生じる当然の結果なのですが、いずれの例においても全く同じ利回りの、全く同じリスクの、全く同じ不動産に投資しているという事実は変わりません。

競争の激しいマーケットで、10%の高利回り不動産のような投資案件を見つけてくることは、非常に難しいことですが、不動産を担保に借入れを起こすことは比較的容易です。このため、トレーディングビジネスにおいて、よい投資案件を見つけてくるよりも、高いレバレッジの借入れを行う方が収益に容易かつ圧倒的に寄与する、という大きな特徴があります。誇張でもなく、不動産投資のノウハウを持たず、より良い案件を取得する努力もそれほど払わずに平凡な資産を取得しても、この資産を担保に激しくレバレッジを掛けることができれば、誰でもが「一流」のファンドマネージャーになることができるのです。冷静に考えてみると、現在国際的なヘッジファンドの預かり資産は200兆円を超え、その多くが10~20%を超える利回りを達成していると推定されています(逆に、それだけの収益を生まなければ資金が集まらず、ファンドとして成り立ちません)。株式投資などを経験して相場の難しさを知っている人であれば、20%のリターンが神業のように感じられるかも知れませんが、これだけレバレッジをかけて自己投資を行えば、むしろ当然のリターンといって差し支えありません。1998年に破綻した前述のLTCMは、数年間続けて年率40%を超える運用収益を上げていましたが、5,000億円の自己資本に対して20~30倍のレバレッジをかけ、10兆円を超える資産を運用していたとされ、更に、約7,000件のデリバティブ取引の想定元本は150兆円に達していました。これだけのレバレッジがかかっていれば、年率40%の収益は少なすぎるくらいかも知れません。

はじめは知恵を絞って裁定機会を見い出し、創造的かつ低リスクで収益を上げていた投資銀行も、レバレッジを掛けることでいとも簡単に収益が上がるので、1990年代以降バランスシートを目いっぱい拡大し始めます。2007年末時点における、アメリカの主要投資銀行の、自己資本を1としたときの総資産(レバレッジ倍率)は、ゴールドマン・サックス26倍、モルガン・スタンレー33倍、破綻したベア・スターンズとリーマン・ブラザーズはそれぞれ34倍と31倍、バンカメリカに身売りがほぼ確定したメリル・リンチ32倍、これら投資銀行の平均自己資本比率は僅か3%程度という状態です。最も財務状態が良いとされていたゴールドマン・サックスを例に取っても、当社の自己資本は2003年の220億ドルから2007年の430億ドルまで、4年間で210億ドル増加し、同期間のレバレッジ倍率は19倍から26倍へ、バランスシートは4,000億ドル(44兆円)から1兆1,000億ドル(123兆円)へ、実に7,200億ドル(79兆円)拡大しました。税引き後の純利益の120億ドル(1.3兆円)は確かに大きな額ですし、自己資本に対して27%の利益率を確保していることから、その「成果」に対して、実に200億ドル(2.2兆円)、純収入の43%が従業員へ給与および報酬として支払われています(2006年に当社が全世界の従業員に一人当たり7,300万円、ブランクファインCEOに対して63億円の報酬を支払ったことは『次世代金融論《その4》』で述べました)。2003年の報酬額の合計は75億ドル(8,300億円)でしたので、レバレッジを急拡大すると同時に報酬額が大きく増加していることがわかります。しかし、123兆円の総投資額(総資産)に対して僅か1%、1.3兆円の利益を生み出すことが、どのような根拠でこれ程の評価に値するのかは理解に苦しむところです*(3)

更に、これもサブプライム危機をきっかけとして破綻に瀕しているアメリカの政府系住宅金融機関、ファニー・メイとフレディ・マックは、どんなにアグレッシブなヘッジファンドや投資銀行も及ばない前代未聞のレバレッジ構造を有しています。両社の2007年末の自己資本832億ドル(9.2兆円)に対して、債務の合計は5.2兆ドル(572兆円)、レバレッジ倍率は実に65倍、自己資本比率は僅か1.6%の財務構造でありながら、米国政府の信用力によって、AAAの格付けを有した社債を大量に発行することで、市場から低金利の資金をほぼ無尽蔵に調達してレバレッジをかけていました*(4)。投資銀行の事例と同様、これほどのレバレッジが可能であれば、誰がどのような経営をしても、どのような戦略で事業を行っても、・・・あるいは恐らく毎日昼寝をしていても・・・、自己資本に対して多額の利益を生み出すことは極めて容易といって差し支えないと思います。

レバレッジの麻薬
ゴールドマン・サックスは、1990年代以降急速に進行した金融のトレーディング化の流れに乗った申し子のような存在です。2007年度のゴールドマン・サックスの税前収益の部門別構成比率は、トレーディング収益132億ドル、投資銀行収益(かつての本業)26億ドル、アセット・マネジメント収益18億ドルであり、利益の75%はトレーディング ・・・いわば「借入れ業」・・・ によって生み出されています。トレーディングビジネスをいち早く重要視したゴールドマン・サックスは、現在の国際金融市場において、1990年代前半にとは比較にならない存在感を有するようになっています。

トレーディング/レバレッジが国際金融ビジネスの「主役」に躍り出た最大の理由は、結局それが「簡単に儲かる」からです。投資利回り僅か1%の平凡な投資を大量に実行し、そのポジションに思いっきりレバレッジをかけるだけで、僅か30,000人の従業員に対して合計2.2兆円の報酬を配分できるようなビジネスが他に存在するでしょうか。「容易に」「多額の利益」を得るビジネスを止めることは、誰にもできません。超資本主義社会が金融業に浸透する中、収益を生み出すために自己資本を使った裁定取引が始まり、投資銀行やヘッジファンド運用者などの金融専門家が際限のないレバレッジを「商売」にするまでの一連の流れは、競争原理が生み出す必然であり、これが更に進行すると、市場のボラティリティは増加の一途を辿り、クラッシュの規模と頻度が資本市場のシステム自体を崩壊させるまで際限なく拡大することが避けられないでしょう。現時点でもなお、全く底の見えない国際金融市場ですが、ひょっとしたら、このサブプライム危機は、まさにそのような崩壊のプロセスなのかもしれません。

専門性という退化
更に、レバレッジの麻薬による傷を非常に深くしている要因が、競争原理によって「磨かれた」「高度な金融技術」と、「エリート金融専門家」自身であり、彼らの「常識」そのものが、実は問題を生み出している最大の原因かも知れません。前述のゴールドマン・サックスの事例において、「金融のプロ」が駆使する数々の「先端金融技術」は、結局のところ123兆円の資金で僅か1.5兆円(1%)の利益を生むためのものに過ぎません。事業構造をありのままに解釈すると、「金融のプロ」の専門性は優れた資産運用や裁定の技術ではなく、お金を借りる技術(あるいは、更に皮肉に聞こえますが、自分の報酬を増加させる技術)にあると考えるべきで、社会的な効率をほとんど生み出していないかも知れないのです。

これは、僕が「金融工学のジレンマ」と呼んでいるもので、散々時間とコストとエネルギーを費やして高度かつ精緻に作り上げたものが、実は本質的にほとんど価値を生まない、という現象を称しています。「世界最強」と言われているゴールドマン・サックスが、あれほどの人材と、システムと、顧客と、情報力と、政治力を駆使して、国債利回り以下の収益しか生み出さないのはなぜでしょう?世界で最も「高度」なリスクマネジメント技術によって管理されている筈の米国金融機関が、世界最大の損失を被るのはなぜでしょう?最も優秀な人材を擁し、最もグローバルに展開し、最も競争力があると言われていたウォール街の投資銀行がことごとく(実質的に)破綻し、中国やアラブから資本をかき集めなければ存続し得ない事態に追い込まれているのはなぜでしょう? ・・・これらの現象を素直に解釈すると、「高度」な「専門性」を有する「プロ」は、そもそも金融的な付加価値を生み出していない、と考えた方が辻褄が合うのです(自分の所得を増やす、と言う付加価値は効率よく生み出していると思います)。

『地方銀行に勤める地方君は100億円の不動産を担保に70%のローンを貸付けて運用する案件の稟議を書いていました。ウォール街の投資銀行で活躍するプロ君は、地方君の仕事ぶりを見て、なんて非効率で原始的な仕事をしているのだろうと呆れます。プロ君は得意の金融技術を駆使し、数量分析によって相関係数の低い資産をミックスするなどしてリスクを「減じ」、大量のローンプールを組成するなどしてクレジットリスクを分散し、高いレバレッジをかけることで自己資金を圧縮しながら多額の融資を実行し、同じ不動産を担保に、95%の投融資を実行します。プロ君は顧客に対して、この最先端の投融資は、高度な商品技術を駆使し、95%の投融資にも拘らず「A」格の信用力が付与され、従来の古臭くて単純な70%の投融資よりも投資家ニーズに合い、流動性が高く、投資リスクも十分に「抑えられている」と説明します。地方君は、難しい金融技術を学んだことがないので、プロ君の説明に圧倒されますが、本心では、同じ不動産を担保にした投融資ならば、70%のローンの方が簡単だし、わかり易いし、何よりもよほど安全ではないかとぼんやり考えています。しかし、理論派のプロ君にはとても反論できずに黙っていると、上司からはもう少しプロ君のように勉強しなさい、と注意されます。』

この挿話において、プロ君は、原資産である100億円の不動産担保の価値や信用力には全く変化がないにも拘らず、地方君が融資する70%の債権と自分がアレンジした95%の債権のリスクが同等だと投資家を説得することができる「専門家」です。その根拠は、この業界での長年の経験と、先端的な「金融工学」の技術によるものとされ、「合理的」な理論と分析に裏づけされています。金融工学が本当に「リスクを減じている」のであれば、70%の債権をより低リスクで商品化できそうなものですが、このような金融技術の大半はレバレッジ、特に限界的な高レバレッジの増加を伴います。一見複雑な金融技術の本質は、この冗談のような挿話そのものであり、95%の債権を70%のリスクとして販売しているに過ぎません。両者の差額の25%は空気を売るようなものですので、レバレッジを商売にする投資銀行が超高収益になるのは当然でしょう。別の表現では、前述の通り、70%前後を越える限界的なレバレッジは等比級数的な利益の増加を生み出す性質がありますが、投資銀行はその差額の大半を顧客に還元せずに収益化することによって、巨額の利益に変えているのです。これが、レバレッジを利益に還元する基本的な原理です。そして、この差額の「25%」は資本主義社会と金融市場に組み込まれたバブルとして、いつか必ずはじける運命にあるのです。

以上の議論を振り返ると、競争原理が専門技術の向上をもたらし、それが社会的な効率を生み出す、という「常識」は甚だ疑わしいものであることがわかります。競争原理が社会と市場に導入されることで金融技術が「高度化」するのは事実かもしれませんが、この技術は社会的な効率を生み出す目的として利用されるよりも、レバレッジを生み出すために利用されます。それはレバレッジが容易に収益になるからで、超資本主義の社会において、「容易に」「多額の」利益を生み出すことに抗することができるものは誰もいません。資本主義社会では、競争原理によって専門技術が高度化するほど、金融市場におけるレバレッジの創造が優先され、社会的な効率を低下させながら必然的にバブルが生じるというメカニズム、・・・すなわち自己崩壊のしくみが内包されているように思えるのです。

【2008.10.4 樋口耕太郎】

*(1) 実際の証券化におけるストラクチャリングや金利計算などは、ここに例示した事例よりも相当複雑ではありますが、基本的な原理は同じといって差し支えないと思います。

*(2) ここでは、債権の裁定取引にかかるヘッジコスト、証券化と販売費用、レポ取引にかかる金利、手数料、取引費用その他様々な諸経費は無視して計算していますので、実際の利益率はもっと低くなります。更に法人全体では、高額な人件費やその他販管費、本社経費、法人税などを差し引き、自己資本利益率は15%~20%程度に落ち着くイメージです。

*(3) ゴールドマン・サックスはまだ程度の良い方かもしれません。次に状態が良いと言われているモルガン・スタンレーを例に取ると、当社の自己資本は2003年の250億ドルから2007年の310億ドルまで、4年間で64億ドル増加しましたが、同期間のレバレッジ倍率は24倍から33倍へ、バランスシートは6,000億ドル(66兆円)から1兆ドル(115兆円)へ4,400億ドル(49兆円)拡大しました。税引き後の純利益の32億ドル(3,500億円)は自己資本に対して9%の利益率ですが、その「成果」に対して、純収入の60%が従業員に支払われ(2003年のこの比率は45%でした)、2007年、ジョン・マックCEOは4,100万ドルの報酬を得ました。3,500億円の利益は115兆円の総投資額に対して僅か0.3%に過ぎません。

以上は、“Why No Outrage?” by James Grant, Wall Street Journal, July 19, 2008、ゴールドマン・サックス社 2007年度年次報告書、モルガン・スタンレー社 2007年度年次報告書、を参照しています。

*(4) “Fannie Mae and Freddie Mac: End of Illusions” The Economist, July 17, 2008.