いよいよゴールデンウィークですね~。

しっかし、時間の経つのは早いものです!
ついこの前お正月が終わったと思ったら、もう1年の3分の1が過ぎ、今や
ゴールデンウィークになっちゃいました。
20代も後半になると、そういうふうに1年の過ぎ行くスピードが
加速しているのを感じ、30を過ぎると、そのスピードに焦りを感じる。そして
40代からはそのスピードを虚しく感じ始めるといいます。
実際に、年をとるほどに“一年”を短く感じるようになるのは、生理的現象の
一種。子供の頃は、1日が短く、1年が異様に長かったのに、大人になるにつれ
逆になり、1日が長く、1年が短くなっていきます。ただ、充実した人生を
送っている大人はいくら年を重ねようとそうはならないそうです。
それはもちろん密度が濃いからで中学生並みの密度の日常を送っているなら、
1日も当然短くなるわけです。ただ大体は、1年が単調なほど、年をとるほど、
1日は長くなり、もの哀しさを免れなくなっていくそうです。
そんなことを考えていた時、昨年末にもらったまましまいこんでいた
カレンダーやスケジュール帳がひょっこり出てきました。なんで今頃と
思いつつも、これをいい機会と、1月から4月まで終わってしまった日々を、
振り返ってみることにしました。空白を埋めるべく、思い出せるだけの出来事を
書いてみる…。むしろ月日の長さに驚いてしまいました。
あれはたった3ヶ月前? あれからまだ1ヶ月しかたってないの? と
逆に今までの日々の密度の濃さにびっくりしたのです。
ニュースだってほんの1~2ヶ月前に世間を大騒ぎさせていた事件のことを、
もうすっかり忘れていたりするもの。他の新しい情報が次々入ってくるから、
記憶から早々に追い出されてしまうのです。自分たちの日常生活も同じ。
自分自身は大して動いていなくても、世の中の動きが実はものすごいスピードで
動いていて、それに完全にのみこまれているから、日々の記憶を長く保って
いられないのでしょう。
でも途中でふり返り、ていねいに思い出すと、そのみっちりした3ヶ月、
4ヶ月が甦ってきます。むしろ月日はとても長いことに気づくのです。
時の流れの早さに心が空しくなったら、今年の1月から、この日は何をした、
どこへ行ったとなぞってみてください。自分の変化や進化にも不意に
気づいたりして、必ず収穫があるはずです。

よくこの言葉を耳にします。
「毎日単調でダレちゃうよ。なにかいい事ないかなぁ」
そういう方の大方が、いつの間にか心の余裕も無くしていて、不平不満の毎日を
送っておられる御様子なのです。
そこでお奨めなのが、
『今日のいい事日記』。
1日の中で良かった事を一つ捜して書き続けてみるんです。1日1日の良い事が
集まって1ヶ月が過ぎ、あっという間に1年が経ちます。
私も10年続けています。「友達に“やせたね”と言われて嬉しい!」「お天気が
良くて、洗濯物がカラッと乾いていい匂い」「お客様に“がんばろうね”と
言っていただけた」など、些細な事が多いですが、それを幸せだと感じられる
喜びを知り、また心の持ち方ひとつで毎日が変わるんだとも思いました。
どんなにちっぽけなことでも、寝る前にひとついいことを見つけると、
あぁ今日もいい1日だったなと思うことが出来るのです。
そうすると、欠けていたのは感謝する気持ちだということに気が付くはずです。
幸せは自分の心の中にあります。幸せがやって来るのをじっと待つだけではなく
見つけ出すことの方が大切なのだと思います。

「日記なんてとても無理…」というあなたなら、20数年前のテレビの子供番組
「ポリアンナ物語」の「良かったさがし」をお奨めします。
この物語は、両親を亡くし一人ぽっちのポリアンナが、牧師さんから教わった、
どんな逆境にあっても喜びを見つけ出すゲーム「良かったさがし」を通して
周りの人々を明るく元気にしていく物語。ある女性が早速まねて4歳の
息子くんと「良かったさがし」をしたそうです。
保育園に迎えに行った時、良かったことを聞いて、毎日抱きしめるのが日課と
なったそうです。息子くんは、しょんぼりして元気がない時でもすぐ満面の
笑みに変化。良かったさがしを通して、隣人への感謝の気持ちがわき、
心の気分転換ができ、物の見方を変えることができたそうです。
すべての優先順位は、生きること。つらく苦しいとき、夫婦、家族、
恋人同士が、一緒に「良かったさがし」をして幸せを確認すれば、
社会全体にも幸せの輪が広がるのではないでしょうか。

このゴールデンウィーク、どこかにお出かけ、もステキですが、
のんびりゆったりと、あなただけの幸せの時を感じてみてくださいね。

私は「スローライフ」を推奨しています。
「スローライフ」の「スロー」とは、現代の「ファスト」な生活の中で、
通り過ぎているもの・ことを、立ち止まってじっくり丁寧に見つめなおし、
充実した時間を楽しもうという提案。そういったもの・ことを大切にすることを
通して、ファストな毎日で磨り減った感性を取り戻し豊かな生活を
送っていただきたいと思うのです。

【2007.4.27 末金典子】

大阪のパン屋さんホットクロスと末金のメールのやり取りを掲載します。この素敵なパン屋さんのように、自然に、嘘がなく、喜んで顧客に純粋な関心を払う少数企業に出会うと素晴らしい気分になります。一般的な「サービス業」の惨憺たる現状(『トリニティのサービス論』参照下さい)と比較すると、日本のメーカーには誠意を持った企業が少なくない印象があります。「サービス」は業務形態の名称ではなく、思いやりの姿勢を示すものです。サービス業界は日本のメーカーから大いに学ぶものがあるのではないでしょうか。

ホットクロスさんの事業姿勢を勝手に『トリニティ経営理論』に当てはめるようで恐縮ですが、彼らの姿勢は「①真実であること、隠し事のないこと、②相手に一切要求せず、ありのままを受入れ裁かないこと、③自分を活かし、相手のためになることを、できることから実行すること」、そのものではないかと思います。ホットクロスの売上の大半は「金色の売上」(『売上論《後編》』参照下さい)に違いありません。

【2007.4.24 樋口耕太郎】

*    *    *    *    *

ホットクロス様

こんにちは。
私は大阪から沖縄県に移り住んで16年になります。
こちら沖縄県のパン屋さん、お店はどんどん増えてはいるものの、
私が大阪に住んでいた時に東大阪市から堀江まで通い詰めて
購入させていただいていたホットクロスさんに適うお店がありません。
ホットクロスさんからの帰り道、車の中で、本物のパンのいい匂いがプンプン
していたことを今でも思い出す始末です。ここのところはネットが普及し、
お取り寄せで食パンを買いまくっていますが、ホットクロスさんの味が私に
とってはかけがえのない最高のおいしさなのです。
そこでお願いがあるのですが、特上食パンだけでもお送りいただけない
ものでしょうか。ご無理を言って申し訳ありません。末金典子

*    *    *    *    *

末金 典子様

始めまして、ホットクロスの海地と申します。
この度はメールを下さり誠にありがとうございます。又弊社 商品に最高の
お褒めの言葉を頂き、工場社員を含め社員一同大変励みになった次第です。
16年前にお買上頂いていた当時と全く同じ製法で現在も焼き続けておりますが、
「特上食パン」は水を一切使用せず牛乳だけで練込んでいる事と、保存材料を一切
使用していない為に日持ち3日となっており、焼き上げた状態でのお送りは難しいか
と思います。そのため本来地方発送はしておりませんが「冷凍」にしての送りは
出来るかと思います。しかし運賃負担等で相当のご負担をお掛けする事になりますの
で心痛する所です。よろしければ又メール頂ければ対処させて頂きます。
ホットクロスを思い出して下さり、本当にありがとうございました。
今後とも宜しくお願い申し上げます。

*    *    *    *    *

海地さま、

今日は私のわがままなお願いに対して、温かで誠実なご対処を
しかも迅速にいただきまして、本当に本当にありがとうございました。
文章から海地さんの御人柄と、ホットクロスさんのお店のあり方が感じられ、
心から感激いたしました。

私の日曜日の日課は、美味しいパン屋さんを探し訪ねること。
昨日もここのところ評判になっているパン屋さんに車で
小一時間出かけ、5000円分ほど買い求めました。結果、ガックリ!!
運転してくれている私のパートナーに
「あ~、ホットクロスのパンが食べたいな~。いつも言うようだけど、
どんなにどんなに美味しいことか!!」とグチっていたところでした。
このパートナー、私があまりにいつもパンパンうるさく言うので、
先日彼の生まれ故郷の岩手で美味しいと有名な“横澤パン”を、
「僕の小さい頃から、美味しいと有名なパンだよ。」と取り寄せてくれました。
確かに美味しいのですが、ホットクロスさんの美味しさとはまた質の違う、
ハードトースト系のものなのです。
大阪の私の両親に頼もうと思っても、高齢で足が不自由なため堀江までは
出かけられなくて…。
そこへ今日の海地さんからのメール! とてもとてもうれしかったです。
本当にありがとうございました。
冷凍していただいたり、梱包していただいたりと大変なお手間をおかけしてしまい
申し訳ないのですが、よろしければ、特上食パン1本をお送りくださいませ。
また折角の機会なので、それ以上の食パンや、お奨めのパンがございましたら
取り合わせて、お送りくださいませ。もちろん無理であれば特上食パンのみでも
かまいません。送料・手数料・梱包代・お手間代など含めまして
1万円以下であればおいくらでも結構です。金額やお支払いにつきましてなど
またご面倒ですがご連絡をお待ちします。
このたびは本当にありがとうございました。

*    *    *    *    *

末金 典子様

早々にお返事頂いたのに、こちらからのお返事遅くなり誠に申し訳ございません。
前回も申し上げました様に 地方発送や冷凍でのお届けは今回初めてであり、
自信がありませんのでこの度の送りは「特上食パン」だけにさせて頂きたく
お願いいたします。弊社も一部の商品について冷凍し、ネット販売での企画も
現在試作検討中です製品として出来上がりましたら改めてご案内申し上げたく思い
ます。詰め合わせ出来なくて本当に申し訳けございません。
代金等の件ですが
* 特上食一本(3斤分)  1.110円
* 送料、代引手数料で約 3.000円位との事です。(ヤマトクール便)
よろしければご連絡お願いいたします。
ありがとうございました。

*    *    *    *    *

海地さま

お忙しい中、私の無理なお願いに対して、丁寧な御検討をしてくださり
本当に本当にありがとうございました。海地さんの御提案の通り
お送りくださいませ。この度はたった一人の顧客に対しも誠実に
対処してくださり心から感激いたしましたとともに感謝の気持ちでいっぱいです。
私のようなホットクロスさんのパンを切望する人間がきっと全国に散らばって
いることと思います。いつの日かネット上でも購入できます日を楽しみに
しております。今回関わってくださった海地さんや工場の方々はじめ
ホットクロスの皆さんのお幸せを心からお祈りしつつ、特上食パンを
楽しみに楽しみに待っております。  末金典子

*    *    *    *    *

末金 典子様

最初にメールを頂いてから一週間も経ってしまいましたが 本日やっと手配が調い
工場より出荷させていただきました。弊社の要領が悪く、イライラなされた事と
お察しいたします。堪忍してやって下さい。
あとはお望み通りの状態でお届け出来る事を祈るばかりです。それと現在試作中の
冷凍カレーパン「カリカリミンチカレー」をご賞味頂ければと思いお送りしておりま
すのでご試食いただければ幸いです。(参考市価税込み168円)
商品は22日(日曜日)クールヤマト便でお届けとなります。
料金明細は クール便2.000円
商品 代1.110円
代行手数 315円 の合計 3.425円です。ドライバーが集金します。
また何かございましたら連絡いただければと思います。今後ともどうぞ宜しく
お願いいたします。ありがとうございました。

*    *    *    *    *

海地さん

今日、特上食パン届きました!
毎日のお忙しいお仕事の中での作業、本当にありがとうございました。

待ちかねて、すぐにいただきました。これです、これ!!
本当に美味しい!! 本当にいい香り!! ウソのない味ですね。
一口一口をじっくり味わいました。
私のパートナーは大のカレーパン好き。御同送くださったカレーパンもとても
美味しくて感激しております。しかもこんなにたくさん!!
おまけ、どころか、かえってお手間とお気を使わせてしまっただけで
大変恐縮しております。

今の世の中、ウソだらけです。
食べ物もそう。
食べ物は、私たちの体に直接入ってくる大切で重要な物です。
なのに今はウソの食べ物だらけです。
漂白剤で洗ってから出荷される大根。種無しにするため成長調整剤を使い人工的な
処理をほどこしたブドウ。まっすぐなキュウリ。真夏の白菜。虫を殺すジャガイモ。
腐らないおにぎり。栄養のない野菜。石油から作られた食品。添加物。
人口の香料や甘味料。……
その点、ホットクロスさんのパンは本当に素晴らしい。

こんな想いでありがたく、うれしく、いただきました。
私とパートナーが感じたほんの一部の人間の僅かな想いですが、
どうぞ海地さんはじめ工場の方々お一人お一人の
誇りと励みになさってくださいますように。
大阪を離れ16年経った今でも、遠く沖縄に離れていても、ホットクロスさんの
パンを忘れたことはありません。
どうぞこれからも本物のパンを世に送り出してくださいね。

海地さん、今の世の中本当に世知辛いですね。
沖縄に住んでいて、大阪出身だと言うと、よく言われます。
「大阪の人ってすっごいケチなんでしょ?」
「大阪って犯罪だらけの恐い町なんだってね。」
でも私は、今回の私のお願いについてのホットクロスさんとのやりとりから、
故郷大阪の人々の温かい想いを感じることが出来ました。
やっぱり大阪が大好きだなって思いました。
世の中まだまだ捨てたものではありません。

ただ今どきこのような温かい思いやりを示してくださる企業がはたしてどのくらい
あるのでしょうか。海地さんとのこの感激のやり取りをいろいろな方に
知っていただきたくて、弊社のホームページ上(アップデイト)にて
御紹介させていただきました。機会がございましたらご覧くださいませ。

大阪に戻りました際にはたくさん買いに行かせていただきます。
そしてぜひ沖縄にもおいでくださいね。

この度は私の夢を叶えてくださり本当に本当にありがとうございました。
いつもホットクロスさんのご繁栄をお祈りしております。心から。遠くから。

トリニティ株式会社  取締役 末金典子

*    *    *    *    *

末金 典子様

この度は総てに於て本当にありがとうございました。心より感謝申し上げます。
お客様に喜んで、安心して、美味しく召上って頂く為にパンを作り続けていて
「本当に良かった」と工場従業員の励みともなりました。又今後の製品作りに
ついても何が大切かを十分に教えていただきました事、報告をさせて頂きます。
(貴方様から頂いたメールを印刷してこんなお客様がいらっしゃる
事のありがたさを従業員に判ってもらうと同時に製品作りに活かせたらとの
気持ちから回覧をさせて頂いておりました。)

御社のホームページ拝見させていただきました。
御社のお考えは本当に理解し易く、行動に移し易く、人を深く尊重した
「経営理念」に自分自身此処最近忘れがちで有った人間性をあらためて思い
出させて頂き感動した次第です。
貴方様の会社は必ず発展し続けると確信しております。是非大阪でも今後の
活躍をお祈りいたします。(アップデイト欄ですが弊社にしましては有り余る
お言葉を頂き心底恐縮の至りです。ありがとうございます。)

この度の縁を機会として今後とも末長いお付合いが出来ます事を願っております。
遠慮なしに申し付け下さいませ。今後とも宜しくお願い申し上げ
御礼にかえさせていただきます。感謝

売上論(pdf)

企業の「売上」には色がついていて、事業の本質的な強さの観点では「良い売上」と「悪い売上」の二つの要素からなり、前者は企業を強くし、後者は短期的な収益を容易に生み出す代わりに企業価値を食いつぶす性質を持つ、というのが前回のエントリー『売上論 《前編》』の仮説です。この考え方は、一般的な経営の諸問題をうまく説明できるような気がします。売上の額は収益を規定しますが、売上の質は事業力と企業価値を規定します。したがって売上の額や収益を第一に考える経営者は「収益を見て事業を見ていない」状態に陥りがちで、短期的な(とはいえ、時にはこの「期間」は10年継続することもありますが)利益成長を遂げながら、企業の凋落を招くという現象が広範に生じるのです。

売上の「色」と経営者
一般に、「売上」はこのような要素に分解されて理解されることが殆どないので、経営者の意識はどうしても売上の額に向けられ、売上の質が重要な経営課題であるという考え方をしにくいように思えます。更に、売上の額を増やすことと売上の質を高めることは相反するように見えることも、経営者が売上の質を意識しにくい原因の一つかも知れません。

売上には二種類の色がついているのですが、この色はうっすらとしたもので、殆どの経営者はこれに気がつかないか、気がついていてもあまり気に留めません。まして、どちらの色の売上も(少なくとも短期的には)同様に収益を生むため、利益成長のプレッシャーを常に受けている経営者の立場では、「そんな微妙な色の違いに構ってはいられない」という気になるのも無理ないところです。色の違いの重要性に薄々気がついている一部の経営者も、金色の売上(「良い売上」)を優先すると、鉛色の売上(「悪い売上」)が大きく下落し、総売上げと収益の急低下を経験することになりがちです。これは一般的な経営者にとっては最大の恐怖であり、金色の売上の重要性を理解していたとしても、なかなか鉛色の売上に頼らずに経営をすることができません。そして、このような試行錯誤を何度か試みた経営者は、いつも金色の売上と総売上の額が両立しないので、「所詮現実社会では実現しない理想論だ」と考えるようになります。

しかし、中には突然変異のようにロマンチックな信念を持つ経営者や、夢を追う起業家や、場合によっては破綻に瀕して退路を断たれた経営者が、金色の売上に事業を賭ける(賭けざるを得ない)ことを選択するケースがあり、少なからず大きな影響力を社会に与えることがあります。例えば1月29日のエントリーで取り上げた旭山動物園は良い事例の一つではないでしょうか。

売上の「色」を見極める
以上を経営的に考えると、①売上の質を見極めること、②売上の質と売上の額のバランスを取ること(良い売上の比率と売上の額を両立させること)、が重要な経営課題となります。売上の質を見極めるヒントですが、金色の売上は「人の役に立った結果生まれる売上」であり、鉛色の売上はいわば「人をごまかした結果生まれる売上」です。金色の売上は、「人が喜んで支払ったお金から構成される売上」であり、「偽りのない商品やサービスによる売上」であり、したがって「原材料、製造過程、原価を開示しても成立する売上」と定義することもできます。

企業会計上、売上はその質がどのようなものであっても、質の違いによって中身が区別されることはありませんが、事業価値の観点では、金色の売上が「事業」、鉛色の売上が「お金儲け」と表現すべき程の相違があります。この相違を自覚的に認識することは、企業価値を高めるための強力な経営手法になり得ます。売上の中から、事業(真実)とお金(ごまかし)を見分けることができるのは、基本的に経営者しかいませんし、経営者の重要な仕事の一つである筈です。経営者がこの違いを理解することは、事業を理解することへの大きなヒントであり、企業を強くするための重要な第一歩になるのではないでしょうか。

強い企業を作る方法
「事業」を強くすることは、「商品やサービスに隠し事がない状態で、顧客が喜んでお金を払う」金色の売上を生む力を高めることに他なりません。したがって、事業力とは、他を利する力であり、嘘のない事業を構築する力であり、開示する勇気であり、収益よりも人間関係を重視する力です。世の中で一般に理解されているような、他社を出し抜くこと、資本力、スピード、営業力などは、企業の事業力とは直接の関係がないかも知れないのです。

また、事業力を高めることは、金色の売上すなわち、「偽りのない商品やサービスによる売上」あるいは「原材料、製造過程、原価を開示しても成立する売上」を見極め、これを増加させる作業です。一見難しいことのようですが、経営者が決断さえできれば、企業の全てをオープンにすることでいとも簡単に実現できます。「金色の売上」すなわち「原材料、製造過程、原価を開示しても成立する売上」を増やすためには、…とても非常識に聞こえると思いますが…、例えば顧客に対して実際に原価を開示してしまうことが最もシンプルかつ効果的であるのは明らかです。そしてこの際、経営情報を開示するという「異文化」を企業に導入するためには段階を経ることが有効だと思います。

僕がサンマリーナの経営を担当していた時、この考えに基づいて三段階の情報開示プロジェクトを実行しました。第一段階は、経営・財務情報の全面開示です。サンマリーナでは財務会計情報が整備されていて不明瞭な点が非常に少なかったため、即時実行することができました。第二段階は、人事情報の全面開示です。役員、正社員、パートなどを含む全ての従業員の考課、給与、号俸等を全従業員に全面的に開示しました*(1)。情報開示は公正な経営を行うことが目的で、現場を不要に混乱させるべきではありません。人事考課を公正なものに見直すための時間を1年と定めて対応しましたが、現実には半年後に準備が整い全面開示を実行することができました。第三段階は、商品原価情報の全面開示です。サンマリーナでは二年以内に、(実務的に対処可能な範囲で)商品原価を顧客に全面開示する計画でした。この「非常識な」方針を実行する前にサンマリーナの経営交代がなされてしまいましたので、実現に至っていません。

オープンにすることの本質は、情報開示そのものにあるのではなく、事業を公正に構成し直すことにあります。情報管理の議論では、どの情報を開示するか、どこまで開示するか、誰に開示するか、どのような方法で開示するか、などが検討されがちですが、経営的に重要なポイントは、情報が開示されても問題が生じない公正な事業運営を行うことであり、情報の開示や扱い方は手段に過ぎません。このことによって経営が根本的に、シンプルに、公正に、効率的に生まれ変わるプロセスはとてもパワフルで感動的です。経営者が勇気を出して事業をオープンにすることができれば、企業内の驚くほど大量の問題が消滅します。例えば、社内政治(社内に限りませんが)は事業効率を大きく低下させますが、これを組織的なしくみや人事で解決することは非常に困難です。政治とは目的と手段が乖離していて真意が隠されている状態を言いますので、オープンな環境で政治は存在することができません。

なお、情報開示を実行するにあたって、最も大きな障害は経営者(および経営陣)自身です。どのような組織でも、自分だけの情報を集めることで自分の価値を高めようとする人がいますが、実はその中でも、情報を最も隠したがるのは経営者であることが少なくありません。

【2007.4.21 樋口耕太郎】

*(1) 笑われそうですが、人事情報の全面開示に加えて、社内不倫の開示原則を発表しました。男女の関係そのものに口を挟む意図ではないのですが、社内不倫は組織に嘘を持ち込み、不公正な人事や歪んだ人間関係の温床になりがちです。特にサービス業において社内不倫が盛ん?な企業は、どうしても隠微な雰囲気が顧客に伝わるような気がします。このような雰囲気を「売り」にしている企業もありますが、サンマリーナでは相応しくないと考えました。そこで、まずは幹部職員に対して、現在社内不倫状態にあれば一定期間内に「嘘のない状態」、すなわち開示可能な状態にすること(別れるでもよし、真剣交際を宣言するでもよし、離婚を決断するでもよし)としました。もっとも、その時のサンマリーナの幹部職員に該当者はいないようでした(…といっても、自己申告ベースですが)。事業経営における男女問題は一般的な経営論で語られることは殆どないのですが、対処次第で事業に大きな影響を及ぼす重大なテーマですので、別の機会にまとめたいと思います。

「強い企業」、あるいは「企業を強くする」とはどういうことでしょうか。売上を伸ばすこと?利益の成長?総資産や純資産を増やすこと?戦略的な新規事業の展開?競争力のあるビジネスモデル?優秀な経営陣や人材の確保?資金力?…。しかしながら、これらのどれをとっても、あるいはこれらの全てを達成しても企業を本質的に強くするとは限らないと思います。例えば、世の中で注目を浴びている(た)成長企業やベンチャー企業の中には、これらの多くまたは全てを満たしている企業は少なくありませんが、そのような企業がいとも簡単に凋落したり、短期間で平凡な企業に変貌してしまったり、場合によっては破綻することもまた珍しくありません。このような現象はどう理解するべきなのでしょう?

企業の強さを理解するためのひとつのアプローチとして、「企業存続の必要条件」を考えてみます。「これがなければ企業は存在し得ない」という要素の中には、企業のエッセンスを理解するヒントが含まれているかもしれないからです。そして、企業の存続にどうしても必要なもの以外の要素をどんどん切り捨てていくと、最後には「売上」だけが残ると思います。企業の付加価値は利益によって顕在化しますが、売上なしには利益は生じ得ませんし、利益がなくても大きな付加価値を有する企業は少なくありません。また、企業に全くお金がなかったとしても、売上を回収することができれば企業は立派に機能し得ます。

良い売上、悪い売上
企業社会の「常識」では、事業とは収益をもたらす活動であり、売上は企業が顧客のニーズを満たすことによって生じる顧客の購買活動によるとされています。このため、事業は「短期的かつ長期的に、どのようにして収益を上げるか」「どのようにして企業の活動範囲を拡大するか」を追求する行為、…要は「どうしたら儲かるか」そして「どうしたらより儲かるか」という企業の活動であり、「儲け」をもたらす「売上」は企業が顧客のニーズを満たすことによって生まれる、と一般に解されているのではないでしょうか。しかしながら、これが「事業」の本質的な意味であるならば、なぜ、ある時まで利益や売上を順調に伸ばしている企業が突然衰退したり破綻したりするのでしょう。一般的に、売上はなにかしら企業実体(の一部)と認識されていると思いますが、実際は企業実体がもたらす結果に過ぎません。売上と企業の本質的な事業力は異なるものと考える方が自然ではないでしょうか。

「売上が伸びている会社であっても強い会社とは限らない」ことと、「売上は企業存続の必要条件である」ことが仮に事実だとすると、「売上には企業存続のエッセンスであるもの(したがって企業を強くするもの)と、そうでないものが混在している」という仮説が成り立ちます。「良い売上」と「悪い売上」といったところでしょうか。そして、いずれの売上であっても利益を生み出す可能性があるため、いわば「良い利益」と「悪い利益」が存在すると考えると、上記の現象をうまく説明できるかも知れません。

カフェと居酒屋
先日那覇新都心のカフェでお昼を食べました。このカフェは小さいながらもガーデニングが施された洋風住宅の店構えで、株式会社サザビーリーグの「Afternoon Tea」にちょっと雰囲気が似ています。僕はハーブサンドイッチ(800円)をオーダーしましたが、お店の「小洒落た」雰囲気と「きれいな」付け合せを別にすると、要はパンにレタス(に思えました)とハムが一枚ずつ挟んであるだけ。もしこのサンドイッチが国道海沿いのカフェで売られていたら、500円でも高いと思ったでしょう。…このような商売を称して、「良い雰囲気」はお店の付加価値であり、その価値が300円の差額として顕在化したと解釈されることがむしろ一般的かもしれません。実際多くの経営者は単価を上げ、原価を下げても売れるお店作りやメニューやサービスや雰囲気作りに心を割いています。しかし、顧客が雰囲気の良いお店を選択するのは、しっかりした料理が出てくると言う期待感からではないのでしょうか?この300円は本当にお店の「強さ」なのでしょうか?

別の日に、同じく新都心の居酒屋さんに行きました。居酒屋さんでは良くあることですが、お酒を進ませるためにどの料理も味付けが濃く、食べるほどにとてものどが渇きます。僕はお酒を飲まないのですが、お腹がいっぱいになるまでの一時間少々の間にウーロン茶を2杯頼むことになりました。食事代2,500円プラス飲み物代1杯250円として500円、合計3,000円の売上は沖縄の外食としてはなかなか高い客単価となります。このようなメニュー作りは単価を上げるための事業の「ノウハウ」と解釈されることが一般的だと思います。しかし、この500円の売上はこのお店の「強さ」が顕在化したものと言えるのでしょうか?

上記のようなカフェや居酒屋さんの話をすると、このようなお店のやり方は「何かがおかしい」と感じる人は少なくありませんが、企業全体の規模で考えるとなぜか意見が正反対になります。例えば上の居酒屋さんの企業全体の年間売上が、単純に単価の100,000倍だったとしましょう。原価と販管費の合計が売上高の80%だとすると、この企業は売上3億円、費用は2.4億円、経常利益6,000万円の優良企業です。この企業がお客様に食事のおいしさを純粋に楽しんでもらいたいと考え直して食事の味付けを少し薄くした場合、飲み物のオーダーが例えば半分になり、売上は2.75億円、飲料原価は低いため費用は殆ど変わらないとして2.3億円だとすると、経常利益は4,500万円となり、25%減益を見込まなければなりません。この会社が上場企業であれば、この瞬間株価が10%くらい暴落することでしょう。これほどの企業収益を「犠牲」にしてまで、食事の味付けを顧客本位に変更することができる経営者は圧倒的に少数派だと思います。しかし、このような経営は本当に企業価値を上げている、すなわち企業を本当に強くしているのでしょうか?

嘘をつくほど売上が上がる
雰囲気でカバー(ごまか)したメニュー、食材を節約し(ケチっ)た料理、進んで(無理やり)お酒を飲ませる味付け、イメージ広告の(現実離れの)きれいな写真で売るリゾート、展示即売会にお客さんを招待し(閉じ込め)て契約するセールス、お客さんのためだと説明される多様な(不要な)オプションの保険、などはサービス業に溢れています。これらは厳密な意味では企業が顧客につく嘘以外の何者でもないと思うのですが、あまりに一般的になってしまっているために、誰も嘘だと認識していませんし、嘘だと声を上げる方が変人扱いされそうです。反面、このような企業の嘘はほぼ確実に(少なくとも短期的には)企業収益を押し上げる効果があり、経営者はこれを嘘と呼ぶ代わりに「事業戦略」、「ノウハウの蓄積」、「マーケティングの効果」と表現することが一般的だと思います。

このように企業の嘘は収益をすばやく押し上げるのですが、顧客がその嘘に気がつくと元の木阿弥になってしまいます。このため、一部のサービス企業では、嘘をどれだけ本当に見せるかが「事業戦略」となっていると言っても良いくらいの状態です。この戦略が成り立つのは、少なくとも短期的に、この嘘に気がつかない、あるいは気がついても許容できる顧客が存在するためで、企業の嘘が社会の常識になっているせいもあってか、この数は決して少なくありません。また、事業における一般的な特徴と言えると思いますが、ごまかしがあるほど、違法ゾーンに近づくほど、利害の対立を利用するほど、大きな収益が生まれる傾向があると思います。このような社会と事業の構造が現実だと考える経営者が目先の利益を最優先すると、事業戦略が嘘だらけになるのはむしろ当然だと思います。

【2007.4.17 樋口耕太郎】

トリニティの企業金融論(pdf)

本ウェブサイトとトリニティアップデイトでは、経営者の立場から経営合理性についての議論を一貫して行っています。目に見える資本や、商品や、売上や、顧客満足度や、形式や、組織や、権利義務などよりも、事業の実体である人間関係を注視することで、一般的に認識されているよりも本来の事業範囲は遥かに広大であることを明らかにし、その広大な事業範囲と莫大な経営資源を前提に「経営合理性とはなにか」を根本的に見直すという作業でもあります。

第一ステップとして、事業経営における従業員との人間関係を「サンマリーナの人事考課基準」と言う形で僕なりに表現していましたが、第二ステップとして、株主との人間関係はどうあるべきか、というテーマをまとめてみたいと以前から強く思っていました。先日上場を検討されているある企業に対して株式上場と企業金融に関するアドバイスを差し上げる機会を頂いたので、これをきっかけにしてまとめたものが添付「トリニティの企業金融論」です。

本稿は、①株式上場を考える経営者への企業金融ガイドであるとともに、②経営者からステイクホルダーへの約束ごとであり、③資本市場の門番である証券会社の効率的な事業モデルのひとつであり、④企業が株主へ手渡す「オーナーズ・マニュアル」です。

「いま、愛なら何をするだろうか」、すなわち、

①真実であること、隠し事のないこと、
②相手に一切要求せず、ありのままを受入れ裁かないこと、
③自分を活かし、相手のためになることを、できることから実行すること、

を株主との人間関係において具体的に実行するという目的は全く変わりませんが、「株主との人間関係」が「従業員との人間関係」と異なる点は、株主との人間関係が企業金融機能によって仲立ちされており、この価値観を金融的な「言語」で表現する必要がある点です。トリニティの企業金融論は、この仲立ち機能を翻訳する「金融語」であり、そのため比較的専門的な内容になっていますが、表現している価値観と目的は他のものと全く変わりません。

本稿はトリニティ株式会社の事業運営と資本調達に関する価値観をまとめたものでもあります。トリニティが投資家から事業や資本をお預かりし、経営・投資運用を行うにあたっての企業金融のポリシー、すなわち資本家を含むステイクホルダーへの誓約内容をまとめたものであり、それは上場エクイティ資本であれ、プライベートエクイティ資本であれ、借入と言う形態であれ同様に当てはまります。

本稿は通常のトリニティアップデイトでは2ヶ月分くらいのエントリーに相当する分量(pdfで40ページ分)となってしまいましたので、一度に全文をご覧頂けるようにしました。左上をクリックして、pdfファイルをダウンロードしてご覧下さい。

【2007.4.1 樋口耕太郎】